「王子様と王女様」
 
 プロローグ
 
豊かな緑に囲まれた、クレバ王国という国に、ヒイロという名の一人の王子がいた。
王子は今年で16歳。普通なら、もう王女を迎えてもいい年頃なのだが、この王子、
“政略結婚”というものに嫌悪を抱いていた。
そのため、親の勧める縁談を断り続け、この年になっても一向に結婚の話が持ち上がらず、
両親である王と妃を困らせていた。
 
 
この日も王子は教育係として幼い頃から使えているデュオを従えて、部屋で暇を持て余していた。
「王子、今日は何をなさいますか?」
デュオがカップに紅茶を注ぎながら尋ねる。
窓側に座り、外をぼんやりと眺めていたヒイロはデュオに振り返った。
「・・・デュオ」
「何でございますか?王子」
「街に降りてみたい」
「街に、でございますか?いくら何でもそれは」
さすがにデュオも眉をひそめた。
「お前は確か、町の出身だったな」
「はあ、そうでございますが」
「お前、週に何度か町に降りるだろう?」
「ええ、まぁ。町の様子を探りに・・・」
「その時、俺も連れて行ってくれ」
「それは出来ません」
デュオは即答した。
「何故だ?」
「何故って、そんなことが王様や妃様に知れたら、只事では済みません」
「大丈夫だ。両親は俺が結婚したいと言い出すまで放っておくつもりだろう。
現に、最近は王室にも呼ばれないし、部屋にも顔を出さない。
俺が一日城にいなかったところで、何も心配はない」
「そうでしょうか・・・」
と、デュオは気が乗らない。
「頼んだぞ、デュオ」
ヒイロは笑みを浮かべてデュオを見つめた。
デュオは困り果てた顔でヒイロを見返したのだった。
 
 
 その日、リリーナはいつものように、友達であるヒルデの家が営業するパン屋へ働きに出た。
ここで働くようになって1ヶ月になる。働き口を探していたリリーナに友達のヒルデが声を掛けたのである。
働きすぎで体を壊し、今では寝たきりに近い状態の母親を抱えたリリーナを人々は同情の目で見つめるが、
リリーナは決して大変だとも、苦しいとも思ったことはなかった。
だからいつも、リリーナは笑顔でいられた。
 
「おはようございます」
と元気にヒルデの両親に挨拶し、ヒルデと共に仕込みの手伝いを始める。
「今日もいい天気でよかったね。洗濯物がよく乾くわ」
「そうだね。それにお客さんもたくさん来るし。今日も頑張らなきゃ!ね?」
ヒルデがニコッと笑顔で言う。
「そうね」
とリリーナも笑顔を返す。
「・・・ねぇ、リリーナ」
「なあに?」
リリーナが仕事に取り掛かりながら聞き返す。
「あなた、好きな人はいるの?」
ヒルデが突然そんなことを聞いてきたので、リリーナは思わず手を止めてヒルデを見た。
「え?好きな人?いないけど・・・どうして?」
「ジャックは違うの?」
「ジャック?彼のことは好きだけど、恋愛の“好き”とは違うの」
「そうなんだ・・・。ジャックの方は違うと思うけど・・・」
ヒルデはぼそりと言った。
「え?」
「ううん、何でもない」
ヒルデは慌てて首を横に振った。
「そういうヒルデはどうなの?好きな人、いるの?」
「・・・うん」
ヒルデは頬を赤く染めて小さく頷いた。
「え?ちょっとぉ。初耳よ。いつ出来たのよ」
「内緒」
「内緒?もう、気になるじゃないの」
「ごめんね」
「いいよ。それより、ヒルデの好きな人って、どんな人?」
「ん・・・。一緒にいるとね、安心するの」
頬を染めて言うヒルデを見て、リリーナは羨ましかった。
(かわいいなぁ、ヒルデ。恋してるって顔・・・。私もいつか、好きな人が出来るのかしら・・・)
 
 
 
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「あとがき」
ああ、何て中途半端な終わり方じゃ・・・。と、ご挨拶がおくれました。希砂羅です。
恥ずかしながら、この作品は、自分が高校生の時にワープロで書いていたものです。はい、青春をGW(もちろん、ヒイロ×リリーナ)に捧げていた自分です。この話は、自分でも好きな作品なので、今回、改めて少し手を加えながら書き直すことにしました。一応、第3章まであり、膨大(?)な量なので、一から打ち直すのはすんごく疲れましたが、頑張りました。楽しんでいただければ幸いです。最後に。読んでお分かりかと思いますが、デュオのキャラが違います。普段の明るい軽口デュオのことは切り捨てて、別人として読んでいただけると、混乱せずに読めるかと思います。ヒイロについてもそうですね。このお話のヒイロは、無愛想じゃありません。微笑います。クールな部分も少しはありますが、全体的に、どこにでもいる、少年、と思って読んでいただけると助かります。少しでもご興味を持っていただけた方は、続きも読んでくださいませ。
 
2004.1.27 希砂羅