「王子様と王女様」
 
第2章 1.結婚
 
 結婚式当日。
王室にて、ヒイロとリリーナの華やかな結婚式が執り行われた。
純白のウェディングドレスに身を包んだリリーナは、誰よりも輝いていた。
王の手により、リリーナの頭に花嫁の証であるクレバ王国の紋章が刻まれたティアラが載せられると、形式としての結婚式は終わりである。
夜になると、大広間で多くの客人を招いて盛大なパーティーが開かれた。
ここでようやく、リリーナのダンスの腕が確かめられる。
リリーナはヒイロと息の合った優雅なダンスをこなしてみせた。
ここでまた、多くの賞賛を得た。
それを合図にするかのように、人々もまたダンスを踊り始めた。
午前0時を過ぎた頃、パーティーは一段落し、ようやくヒイロとリリーナは解放された。
2人が大広間を出たとき、デュオと侍女が待っていた。
「何だ?」
ヒイロがデュオに顔を向ける。
「パーティーはいかがでしたか?」
「疲れた」
「そのようですね。・・・さて、リリーナ様」
デュオはヒイロに苦笑を返すと、リリーナに向き直った。
「はい」
「あなたは様にはお支度がございます。後のことは全て侍女に任せてございますので」
「あの・・・支度って・・・?」
「今日がお2人にとってどんな日か、ご存知でしょう?」
「え?」
とリリーナが聞く前に
「さあ、参りましょう、リリーナ様」
リリーナは侍女に腕を取られ、引っ張られていった。
 
リリーナは侍女に浴室に連れられていかれた。
「覚えていますか?私のこと」
「え?」
侍女に聞かれ、リリーナは侍女をまじまじと見つめた。
「あ・・・。あなたは確か、私が初めてお城に来た時に、私を正装させてくださった・・・」
「はい。マリアと申します。これからも、リリーナ様のお世話をさせていただくことになりますので、どうぞ、宜しくお願いいたします」
マリアは丁寧に頭を下げた。
「こちらこそ、宜しくお願いいたします」
リリーナも丁寧に頭を下げた。
「リリーナ様、それではお支度を致しましょう。あまり、男性をお待ちさせるのも失礼ですから」
「あの、支度って・・・」
「初夜のお支度ですが」
さらりとマリアは言った。
「初夜の・・・お支度・・・」
リリーナの頬が一気に赤くなる。
「そ、そうよね、結婚したのだもの・・・ね」
「今夜は夫婦となったお2人にとって大事な夜です。綺麗に致しましょう。大丈夫、全てわたくしにお任せください」
マリアはにっこりと言うと、リリーナの服に手を掛けた。
「・・・お願いします」
リリーナは恥ずかしそうに微笑んだ。
 
 
 ヒイロは、これからリリーナと2人の寝所となる部屋で、1人ベッドに腰掛けていた。
先ほど、デュオに言われて湯を浴び、身を清め、新しい寝着に着替えたところである。
しばらくして、ノックがあった。
「ヒイロ様。リリーナ様をお連れしました」
リリーナを連れて行った侍女の声だった。
返事を返すと、ゆっくりとドアが開き、リリーナがそっと入って来た。
恥ずかしそうに頬を染めている。
リリーナは、綺麗な刺繍の入ったシルクのガウンを身に付けていた。
自然に下ろした長い髪がまだ少し濡れている。
化粧をしていなくても、綺麗なドレスを着ていなくても、目の前に立っているリリーナはとても美しかった。
思わず、ヒイロは見とれた。
ヒイロは側へ寄ると、リリーナの手を引いてベッドへ誘った。
2人、並んで腰を掛ける。
ヒイロは手を伸ばし、リリーナの頬に触れた。
「綺麗だ・・・」
「王子様・・・」
ヒイロの指がリリーナの唇をゆっくりと辿る。
ドクンッとリリーナの胸を鼓動が打つ。
ヒイロの唇がリリーナの唇に触れた。
ヒイロは唇を離すと、リリーナを抱きしめた。
途端、ふわりと花の香りがした。
「いい香りがする・・・」
「バラのコロンです」
体を洗い終えた後、マリアがリリーナに振りかけたのである。
“いい香りでございましょう?ヒイロ様もきっとお気に召すと思いますわ。それにこれ、「媚薬」の効果もあるそうなんですよ”
リリーナの頭にマリアの言葉が蘇る。
(媚薬・・・)
「王子様・・・」
「ヒイロと・・・」
ヒイロはリリーナを見つめた。
リリーナも見つめ返す。
「ヒイロと呼んでくれ。せめて、2人でいる時は」
「・・・はい。・・・ヒイロ・・・」
ヒイロの手がリリーナのガウンの紐をゆっくりと引いた。
軽く開いた隙間から白い肌が覗く。
リリーナの顔が赤く染まる。
リリーナは恥ずかしさのあまり、ヒイロを真っ直ぐに見ることが出来ず、顔を伏せた。
「私・・・初めてで・・・。どうしていいのか分からなくて・・・」
「・・・ああ。大丈夫だ。優しくする」
ヒイロは優しく微笑んだ。
「・・・はい」
リリーナも微笑み返す。
ヒイロの手が、リリーナの頬に、髪に触れる。
リリーナは目を閉じた。
2人の唇が重なる。
リリーナの体がゆっくりとベッドへ倒されていく・・・。
 
 
 次の日の朝。
リリーナは目覚めると、天井を見つめた。
顔をゆっくりと横に向ける・・・。
そこには、ヒイロの安らかな寝顔があった。
「ヒイロ・・・」
名前を呟いてみる。
髪に触れ、頬に触れた。
その時、ぱちっとヒイロが目を覚ました。
リリーナは驚いて慌てて手を引っ込めた。
しかし、ヒイロはすぐにまだ眠そうに目を細めた。
ヒイロはリリーナを見つめた。
「リリーナ・・・」
まだ寝ぼけているのか、ヒイロはリリーナの体を引き寄せ、また眠りに落ちていった。
その様子が妙に可笑しくて、リリーナはくすくすと笑った。
ヒイロの腕の中、リリーナの心は幸せで満ち溢れた。
“愛している”
そう素直に思える自分が、とてもいとおしかった。
 
 それくらいどれくらいの時間が過ぎただろう。
リリーナもいつの間にか眠ってしまっていた。
その時、コホンッという小さな咳払いの後、ドアをノックされた。
途端、ヒイロがぱちっと目を覚ました。
今度は寝ぼけていなかった。
これにはリリーナも驚いた。
ドアが微かに開き、ためらいがちなデュオの顔が覗いた。
「王子、朝ですが・・・」
ヒイロはデュオを睨んだ。
「今日くらい気をきかせろ」
「です、よね」
デュオは苦笑を浮かべてすぐに引っ込んだ。
「いつも、この時間に起きていらっしゃるのですか?」
「ん?ああ。あいつ、デュオは時間に厳しいからな。8時丁度にいつも起こしに来る。もう慣れてしまって、ノックがあると自然に目が覚めてしまう」
「そうなのですか。・・・これからは、わたくしが起こしても構いませんか?」
「お前が?」
「旦那様を起こすのは妻の役目です」
リリーナは微笑んだ。
「そうか・・・。それでは、頼むことにしよう」
ヒイロも微笑んだ。
「はい・・。お笑いになるかもしれませんけど、愛する旦那様を起こすのがずっと夢だったんです。それが妻の幸せだと思うから」
「俺も幸せだ・・・」
「ヒイロ・・・」
2人の間に穏やかで、心地よい風が流れた。
 
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「あとがき」
キャッ、恥ずかしいっ、てなシーンもありますが、ラブラブでお熱い2人であります。今ならもっとラブラブなシーンが書けますが、これを書いていた私は高校生だったので、これだけ書けただけでも自分では大満足でありました。若いねぇ。
 
2004.2.1 希砂羅