「青い鳥〜幸せへの扉〜」

第2話 

 暗闇の下、彼女を見下ろす。
染みの付いた枕カバー。
手を伸ばし、触れる。
そこは、湿っていた。
それが何か、考えなくてもわかる。
自分が彼女に流させた、涙。
どれだけ自分が彼女を苦しめているか、分かっている。
消えればいい。
それは簡単なこと。
けれど、そんな簡単なことが出来ない自分がいる。

彼女に触れたい。
けれど、触れられない。
彼女は自分一人のものではないから。
奪ってやるくらいの勇気が無いわけではない。
けれど・・・。
言い訳ばかりが浮かぶ。
全て、自分を抑えるための言い訳だと、知っている。

欲しいものを欲しいと言えない。
我慢すれば、やがて欲しいものは欲しいものではなくなる。
ずっとそうだった。
我慢すれば、それでいいこと。
欲しいと思わなくなるまで。
簡単なことだった。
慣れていたから。
当たり前の出来事だったから。
それなのに、今、何故こんなに苦しいのだろう。
欲しいものが、目の前にある。
それを欲しくなくなる保障は出来ない。
欲しいと、ただ欲しいと、その欲求が勝ってしまっている。
その欲望の固まりになりつつある自分をただ抑えることで精一杯だった。

危険だ。
彼女は危険だ。
俺を狂わせる。
俺の欲望の制御装置を壊す。
ならばいっそ、壊してしまおうか?
彼女をこの手で。
人間を壊すことは簡単だ。
ちょっとコツを掴めば、簡単に壊せる。
だけど、彼女の顔が苦痛に歪む様を、俺は正視できるだろうか?
彼女の瞳から零れる涙を見て、俺は普通でいられるだろうか?

目の前にある彼女の細い首。
その首に手を伸ばし、けれど、震える手を、見た。
自分の手が震えている。
これは拒否だ。
殺せない。
自分には殺せない。
彼女を消すことは出来ない。
それを悲しいことだろうか?
それとも、幸せなことだろうか?

俺は、何を幸せと思うだろう?

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「あとがき」
勢いだけで書きました。1話1話、リリーナサイド、ヒイロサイドと交互に書いていこうかな、と思って、今回はヒイロサイドで。書けるかなぁと思ったんですが、書いていったら止まらなくなってしまって、ずっと手が動いてましたね。短いですが、とりあえず、第2話はこんなところで・・・。

次回、会いましょう。

2005.5.30 希砂羅