「結婚マーチ」 


《小さな森の教会で、二人はその日、永遠の愛を誓った。》

 小説のエピローグはそう締めくくられていた。

 ぱたんと閉じた小説を見つめ、ため息をつく。

自分にもいつか、こういう日が来るのだろうかと。

その時、隣にいるのが彼ならいいと、切に願ったりする。

 

「そう何度もため息をつくな」

声に顔を上げると、両手にコーヒーカップを持った彼が立っていた。

「疲れるから本はやめておけと忠告はしたぞ?」

彼がわたくしの目の前に湯気の立つコーヒーカップを差し出す。

本を膝の上に置いたまま、ありがとうとカップを受け取る。

「別に、疲れてはいないけれど・・・」

小さく反論し、コーヒーを一口飲む。

甘い。

わたくし用に、甘くしてくれたようだ。

甘いものは心を癒してくれる。

身体から力が抜ける。

「ようやく読み終えたのか?」

彼がわたくしの膝の上に置かれた小説を見る。

「ええ」

「納得のいく結末だったか?」

「かも、しれない」

「かもしれない?」

「ラブストーリーにはよくある結末だもの」

彼が小説を手に取り、最後のページを捲る。

「・・・なるほど」

彼は小さくつぶやき、わたくしに本を返した。

「よくある結末だな」

「ええ」

頷いて、彼を見る。

「・・・ヒイロ」

「何だ」

「わたくしと、未来を共に歩む覚悟がある?」

「・・・お前にはその覚悟があるのか?」

「あると言ったら?」

「・・・それは俺も同じだと、答えるまでだ」

「ヒイロ・・・」

彼の答えに、ため息を一つ。

それはとても甘くて、心を優しくくすぐった。

 

無数に存在するラブストーリー。

ここにもまた、一つのラブストーリーがあった。

 

彼と彼女の辿り着く場所。

そこに待ち受けるものは、果たして何だろうか。

 

それは、どんなラブストーリーよりも甘く優しく、二人の心を溶かしてゆく。

 

これはその、ほんの始まりでしかない、プロローグ・・・。

 Fin

「あとがき」
今回は、「か行」の「け」ですね。
「結婚」しか思いつかず、「結婚」をテーマに書くことに決めたんですが、
納得いくものが書けず、何度も書き直しました。3つくらいボツにしましたね。
題名と内容が一致しているんだか、かけ離れているんだか、何だかなぁという感じです。難しかったぁ。
さて、次は「か行」のラスト。「こ」ですね。「こ」・・・。うーん、何だろう。また悩みますわ。

 2004.10.30希砂羅