「キスはそれを伝えている」

  

触れる唇の温かさに、不安はなかった。

不安を掻き消すように、激しくて、そのまま思考さえ、奪われた。

 零れる涙は、その口付けの激しさゆえか、それとも、その下にある切なさゆえか。

 「不安か・・・?」

 彼が問う。

 「いいえ」

 

そう、わたくしは微笑む。

会えない日々は、そう、不安に心は覆われる。

 けれど、こうして時を合わせて口付けを交わせば、その不安は掻き消える。

 自分を愛しているか。

 

そんな陳腐な質問を、彼にするつもりはない。

 

彼もまた、わたくしにそれを囁くこともない。

 

けれど、不安も不満もない。

 

その口付けが、全てを語っているから・・・。

 

Fin

「あとがき」
今回は、「か行」の「き」ですね。予想通り、「キス」になりました。
それにしても、どんどん文章が短くなっていくな・・・とそんな不安を感じているわたくしです。
だけど、読み返しても変じゃなかったので、このままで終わることにしました。

さて、次回は「く」です。うーん、また難しいわぁ。

2004.10.26希砂羅