「エレベーター〜“愛のカレー”への道程〜」
二人だけの空間。
そう思えば、幸せかもしれない。
けれど、そんな幸せに浸っている場合では無かったりする。
何せ、この密室に閉じ込められ、1時間は経過している。
最初でこそ、笑っていられたが、時間が経過するにつれ、
二人の間に不安がどんどん大きくなっていくのを互いに感じていた。
それ故、会話も減る。
代わりに増えるのは、ため息の数。
「まだ、故障は直らないのでしょうか」
「そろそろ、直ってもいいと思うんだが・・・」
「段々、息苦しくなってきた気がします。わたくしの気のせいかしら」
「仕方ない。この密室に二人の人間がいるんだ。その分、酸素は減る」
「そうですね」
リリーナはため息を落とし、天井を見上げる。
そして、何かを思い出したようにヒイロを見た。
「そう言えば、ヒイロ。あなたにいつかお願いしようと思っていたのですが」
「何だ」
「男性のあなたにお願いするのは、その、心苦しいというか、
恥ずかしいことなのですけど」
リリーナは少し頬を赤らめた。
「いつか、いつかでいいのです。あなたのお時間がある時で。
その、ね、お料理を教えていただきたいの」
「料理?」
ヒイロは以外そうな顔でリリーナを見つめた。
「わたくし・・・その、自分で言うのも何ですけど、いわゆる、お嬢様でしょう?
だから、自分でお料理というものをしたことがないのです」
「料理をすることに興味があるのか?」
「わたくしだって女ですもの。お料理の一つや二つ、覚えたいのですわ」
「花嫁修業のようなものか?」
「まあ、そうですわね」
「教えるのはいいが、何故、俺なんだ?
お前だったら有名なシェフにでも先生を頼むこともできるだろう」
「そんなの、つまらないですわ。あなただから、良いのです。
あなたに教えてほしいの、ヒイロ」
リリーナに懇願され、ヒイロはまあ、いいか、とため息をついた。
「・・・時間が出来たらな」
「よろしいの?」
「ああ」
「ありがとう、ヒイロ」
リリーナはにっこりと微笑んだ。
それから数分後、ようやく修理が完了し、エレベーターのドアが開いた。
エレベーターを出る直前、リリーナはヒイロに振り返った。
「約束よ?ヒイロ」
そう言って、リリーナは可愛くウィンクしてみせた。
「了解」
ヒイロは小さくつぶやいた。
Fin
「あとがき」
「え・・・絵本、エスパー、エピソード、エレベーター・・・。エレベーターかぁ」
「エレベーター=密室」ということで、最初は二人のじゃれあいでも書こうかと思ったんですが、
何となく、違う方向へ・・・。
結果、このシリーズの第1弾の「愛のカレー」へ繋がる話になりました。
まあ、結果オーライってことで許してね。
次回は「お」です。
さて、また悩むかな・・・。
2004.10.23希砂羅