「・・・を」

 

 愛を・・・。

言葉を・・・。

心を・・・。

この涙を・・・。

 
受け止める術を、あなたが持っているのなら、どうか・・・。

受け止めてください。

  

月明かり。

窓際に立つあなたの姿に、胸が切なくなった。

別れを告げられたわけでもないのに、なぜか、胸が痛くて。

 

「どうした?」

彼が振り向く。

「いいえ・・・。何でもありません」

浮かんだ涙を指で拭い、微笑む。

「月明かりが眩しくて・・・」

誤魔化すように、さっきまで彼が見上げていていた月を見る。

今日は満月。

「明るいですわね、とても。こんなに大きな月を見るのは初めてです」

「ああ・・・」

彼もわたくしにつられて、再びわたくしに背を向けて月を見上げる。

 

「リリーナ」

彼が背中を向けたまま名前を呼ぶ。

「何ですか?ヒイロ」

彼の背中を見つめる。

「・・・一人で泣くな」

その声は、まるで囁くように小さく、けれど、わたくしの心へ深く届いた。

「一人で苦しむな」

「ヒイロ・・・」

「お前は一人じゃない」

 

ぽちゃん・・・。

滴が落ちて、床で跳ね返る。

自分でも驚く程の大粒の涙が・・・床を濡らす。

 

彼が振り返る。

彼の顔が、涙で滲む。

その手が、頬を優しく包んだ。

 

想いが届く。

この胸に、深く、優しく。

 

「わたくしを・・・一人にしないで」

 

涙で滲む彼の顔。

 

「お前を一人にはさせない」

 

彼が答える。

 

胸を熱く燃やす炎。

その炎が、彼の胸にもあると、その時感じた。

 

孤独な時ほど、人は誰かを求めて、その手を必死に伸ばす。

その手を受け止めてくれる、誰か。

その誰かを、待っている。

 

運命と、人は言う。

奇跡と、人は呟く。

 

月明かりが照らす。

愛が生まれる瞬間を。

月だけが、その愛を見つめ、祝福していた・・・。

 

Fin

「あとがき」
今回は「わ行」の「を」です。
ぶっちゃけ、このシリーズの中で一番難しかったのではないでしょうか。
「を」が頭に付く言葉って、無いでしょう?
まあ、「お」と同じ使い方をすればいいのかもしれないけど、それも何か変だな、と思って・・・。
今回はこういう形にしてみました。

さて、次回はシリーズの最後です。「ん」です。さあ、頑張りましょう!
2005.1.22 希砂羅