「わがまま」
たまにはいい。
慣れないことをするのも。
そんなことをふと思う。
だから・・・。
わがままを一つ。
彼女と生きる。
そう決めたのは自分で。
けれど、選んだのは彼女。
腕に愛し子を抱いた彼女は俺の顔を覗き込む。
その瞳が優しく揺れたから、俺も思わず頬が緩んだ。
「何でもない」
そう決まりの言葉を返す。
「ヒイロ」
そんな俺を彼女は諭すように、真っ直ぐに見つめた。
「嘘はつかないで。言いたいことは言ってちょうだい。
わたくしに関係のないことを考えていたのなら別だけど・・・。
でも、瞳はわたくしを映していたわ」
彼女に嘘が通じないことなど、初めからわかっていた。
けれど、身についてしまった癖というのはなかなか拭い取れないものだ。
「くだらないことだ」
「それはわたくしが決めることよ?」
彼女に言われ、これ以上、自分が嘘をつくのにも嫌気がさした。
だから、素直に答えようか。
ゆっくりと深呼吸をする。
「お前は、俺の妻であり、ヒリオの母親だ」
「ええ・・・」
彼女は先を促すようにゆっくりと頷いた。
「そして、俺にとって、生涯ただ一人の女だ」
「ヒイロ・・・」
「つまり、何が言いたいかというと・・・」
彼女はただ、俺の次の言葉を待つように、微笑みながら俺を見つめる。
「たまにでいい、妻でも母親でもなく、ただ一人の女として、俺の傍にいてくれないか」
俺のこの言葉に、彼女は少なからず驚いたように、軽く唇を開いた。
「変なことを言って悪かった。忘れてくれ」
「・・・たまにでいいの?」
彼女は上目遣いに俺を見つめた。
その瞳は微笑っていた。
「でも、たまにでも、無理だわ」
彼女の言葉に少なからず落胆した。
馬鹿なことを言ったと。
「あなたも、わたくしにとっては、生涯、ただ一人の男性だもの。
名義上はそう、わたくしの夫であり、この子の父親よ。
だけど、わたくしは・・・。
あなたのことをそんな型にはめたくはない。
一人の男性として、あなたを愛しているから」
「リリーナ・・・」
言葉が出ない。
嬉しすぎて。
幸せすぎて。
この女を愛して良かったと。
心から思う。
出会えて良かったと。
Fin
今回は「わ行」の「わ」です。
最初は違うものを書いていたのですが、どうも上手く書けなくて、助けを求めに、
書きかけばかりを入れてある「ネタ帳」を開いたらこれがありました。しかも「わ」が付くじゃん!
この話、全然忘れてました。こんなの書いたのねって感じで。
で、途中で切れていたので、続きを書いてみました。
読めばわかると思いますが、この2人は結婚して子供もいます。
「ヒリオ」というのが子供の名前ね。
さて、次回は、「を」です。
書けるだろうか・・・。
2005.1.22 希砂羅