「雪のクリスマスに少女は夢を見る」
はらはらと舞う、白い雪。
両手でその雪を受け止めても、手に落ちた雪は、その体温で一瞬にして水へと変わる。
自然の奇跡。
寒さに口から漏れる吐息は白く、余計に肩が震えた。
その肩へ、彼の手が乗ったと思うと、すっと彼の胸へ引き寄せられる。
交じる吐息。
それが暖かいと感じてしまうのは、自分だけだろうか。
そんなことを思って、彼を見上げると、ブルーの瞳もまた、自分を見ていた。
目が合ったことに、どきどきする。
その瞳が近づいて・・・。
あっと思った瞬間には、その唇がわたくしの唇と包んでいた。
「・・・というのが、わたくしの理想なんですの」
彼女は言った。
いたって真剣な顔である。
だから、俺にどうしろと言うのだ。
俺は何度もその言葉を繰り返した。
しかし、彼女はその言葉を聞かず、まるで夢を見ているかのような目つきで、
夢のようなことを言っている。
全ては、俺に対する嫌味なのだが。
ことの次第は1週間前。
「クリスマス、お仕事なんですってね?」
部屋を訪れた俺に、彼女は間髪入れずにそう切り出した。
「わたくしが、どんな思いで今年のクリスマスに休みを取ったか、ご存知?
本来入っていた仕事を次の日に伸ばしてもらうようにお願いするのに
どれだけの時間が掛かったか、ご存知?
下げたくも無い頭を下げて、必死にお願いしたのよ。
それなのに、肝心のあなたはお仕事だなんて。しかも、遠くへ出張だなんて・・・」
「・・・悪かった」
とりあえず、詫びを入れる。
ここで反発しては、余計に彼女の気持ちを害するだけである。
それは、彼女と付き合う内に学んだことだ。
「わたくし、ずっと夢見てきたわ。大好きな人と過ごすクリスマスを。
しかも、今年のクリスマスは雪なんですって。そしたら、ホワイトクリスマスになるのよ。きっとロマンチックで素敵なクリスマスになるわ。
それなのに、あなたが隣にいないなんて。そんなこと・・・。
一体、わたくしは何のために必死にクリスマスの休みを勝ち取ったのか、
その意味さえ、無くなってしまうわ」
「・・・分かった」
「・・・え?何が、ですの?」
「お前も来い。一緒に着いて来い。街を歩くことは出来ないが、
ホテルで一緒に過ごすことは出来る。それに、コロニーにだって、雪は降る」
「・・・良いの?」
彼女の瞳がきらりと光った。
「・・・ああ。その代わり、ちゃんと変装はしろ。それが条件だ」
「ええ、分かっています。ありがとう、ヒイロ。とても嬉しいわ」
「ああ・・・」
ホッ息をつく。
彼女と居るのは嫌いではないが、時々疲れる。
そして、クリスマス前日。
出張先のコロニーへ向かうシャトルの中、俺は延々と、
彼女が夢見る理想のクリスマスの過ごし方を聞かされることになる・・・。
Fin
「あとがき」
今回は「や行」の「ゆ」です。
「ゆ」と言えば、「雪」しか思いつかなかったので、雪をテーマに書いていったら、
時期外れの「クリスマス」話になってしまいました。リリーナ様のキャラがちょっと壊れぎみです。ごめんなさい。
タカビー?なお嬢様キャラになってしまった・・・。
本当はね、もうちょっとロマンチックな話になる予定だったんですが、1段落目まで書いて少し席を離れた時に、
「・・・というのが、わたくしの理想なんですの」と、リリーナが頭の中で言ったもんですから、
こんな話になりました。ご了承願います。
さて、次回は「よ」です。「や行」は少なくていいね!
次回も頑張ります。
2005.1.9 希砂羅