「目には目を」

 

「ヒイロって、意外に意地悪なのです」

紅茶の入ったカップを両手で包み、外を見つめながら彼女は言った。

「だから、わたくしも意地悪をしたくなるの」

そんなことを言う彼女の横顔を見つめ、

聞き役(愚痴を聞かされる相手とも言う)であるカトルは、

なるほど、と一人、心の中で納得した。

昨日、彼女から呼び出しのメールをもらった理由が、ようやく分かった。

そして、そんな彼女が微笑ましくもあった。

いつもはスーツに身を包み、周りの大人たちと対等に渡り歩く彼女。

けれど、今、目の前にいるのは、恋人の愚痴(のろけ、とも言う)を零す、

どこにでもいる普通の18歳の少女。

「何を笑っていらっしゃるの?」

声に顔を上げると、口を尖らせた彼女がこちらを見ていた。

「いえ、何でもありません。・・・それで、どんな悪戯をヒイロはするんです?」

「そうね・・・」

と、彼女は顔を上げ、考える仕草をする。

「この前、パース大臣主催のパーティがあったのはご存知?」

「ええ。僕は参加出来なかったのですが」

「ええ、そうだったわね。で、そのパーティへ着て行くために用意しておいたドレス、

赤いドレスなのだけど、それをね、派手だから駄目だって言って、

どこかに隠してしまったの」

「赤いドレス・・・?確かに派手な色ではあるけれど・・・。

もしかしてそのドレス、背中が大きく開いているとか」

「・・・ええ、そうね。割と大きく開いてはいるけれど、

そんなのはケープか何かを上に羽織ればすむことよ?」

「うーん、でもね、リリーナさん。

会場の中で、ずっとドレスの上に何かを羽織っているのは失礼だから、

脱いで預けるでしょう?」

「・・・そうね」

彼女はあっさり頷いた。

「つまりね、リリーナさん。ヒイロは意地悪でそのドレスを隠したのではなく、

あなたの肌が他人の目に晒されるのが嫌だったんじゃないのかな。

代わりにヒイロが選んだドレスは、割とシックな色で、

肌もあまり露出しないものだったでしょう?」

「・・・それって・・・」

僕の言った言葉の意味をようやく理解したのか、彼女は赤い顔をして俯いた。

「・・・僕が思うに、ヒイロは誰よりも独占欲が強いんじゃないのかな。

だから、大事なリリーナさんを、危険な目に合わせないように、

自分以外の誰かに奪われないように、防御しているんだよ」

「ヒイロ・・・が?」

「うん。僕の想像だけどね。それで?

リリーナさんは“そんな意地悪”をしたヒイロにどんな仕返しをしたの?」

実は、それが一番気になるところでもあった。

赤くなった彼女は、それでも微笑んで。

「・・・パーティへの同伴を」

 

ああ、そうか。

僕はつぶやいた。

そして納得した。

パーティの翌日に上がったスクープの理由を。

“ドーリアン外務次官に恋人か!?”

 

てっきり、いつものデマかと思っていたんだけど、あれは、君だったんだね、ヒイロ・・・。

 

Fin

 

「あとがき」
今回は「ま行」の「め」です。
「目には目を、歯には歯を」というわけで、やられてもやり返す、という内容の話にしようかなと、
題名を先に置いてから書き始めたんですが・・・。うむ、何じゃこりゃ。

一応、内容は甘い・・・と思うのだが。今回は、ヒイロではなくカトルさんに出ていただきました。
どうもありがとう。

「あいうえお作文」、完成する前に年が明けてしまいました。あう〜。残念!
まあ、仕方ない。最後まであきらめずに頑張りたいと思います。
はい、というわけで、次回は「も」ですね。
頑張れ〜。
2005.1.2 希砂羅