「無理は承知」
それは、予想外な彼女の返事だった。
しかし、彼女の言葉を軽く聞き流し、俺は彼女の唇へ口付けた。
何かを誤魔化すためでも、言い訳の変わりに彼女の唇を塞いだわけでもなく、
それは単に、俺のわがままだった。
どこまで俺は愚かなのかと、自問するも、彼女の柔らかな唇に触れた途端、
そんなことはどうでもよくなる。
「無理は言っていないつもりだが」
軽く言い返すと、彼女は大げさなため息をついた。
「あなたがわからなくなるわ」
わかってもらおうとは思っていない。
そう言いかけて、やめた。
これ以上、彼女の機嫌を損ねるのは、自分にとっても不利だ。
「だって・・・」
と、彼女も言いかけてやめた。
見ると、彼女は耳まで顔を赤くして俯いていた。
そんな彼女を見るのは滅多にないことだ。
思わず、じっと見つめてしまった。
しかし、いつまでも待ってはいられなかった。
「本気なの?」
ようやく顔を上げた彼女が、それでも困ったように眉を寄せた顔で見つめる。
「・・・わたくし、とてもわがままよ」
「・・・知っている」
「お嬢様で、家庭的なことはほとんど出来ないし」
「ああ・・・」
「それでも、わたくしを・・・」
「お前に無理はさせない。だが・・・最後はお前が選べ」
「ヒイロ・・・」
彼女は一度俯き、すぐに顔を上げた。
そこに、微笑む彼女がいた。
「その申し入れ、承ります」
無理は承知。
そう思って、打ち明けた。
何より、彼女を手放すことなど、自分には出来ないと知ってしまったから。
彼女がくれた答えに、俺は心底安心した。
この時の俺の必死な思いを彼女が知るのは、それから5年後のこと・・・。
Fin
「あとがき」
今回は「ま行」の「む」です。
「む」の付く言葉、なかなか思いつきませんでした。
「むかし」とか、「難しい」とか、ネタとして使えないものばかり思い浮かんでしまって
、困っていたんですが、ぼーっとしていたら、「無理を言わないで」と、リリーナが囁いたものですから、
そこから広げていきました。書きながら、ヒイロがどんな無理を言ったのか、全然考えずに書き進めっていったので、
自分でも、ヒイロがリリーナに何を言ったのかは不明。まあ、読み進めていけばわかると思いますが。
まあ、はい、求婚(プロポーズって言えよ)したわけですね。
で、リリーナはそれに素直にYESとは言えず、本当に自分はヒイロにふさわしいのか、と悩んでしまった、という。
そんなわけで飛び出した言葉が「無理を言わないで」、だったのだと思います。
でも、やっぱり、最後、答えはYESなのね。基本的に私が書くものは(ヒイリリに限定)甘い話が多いですけどね。
はい、というわけで、次回も甘い話が書けるといいな。次回は「め」ですね。
頑張りまーす。
2004.12.30 希砂羅