「惚れた弱み」

 

彼の視線が痛いほどに自分に突き刺さる。

その視線の意味を知っていながら、わたくしは背中でそれを受け止めた。

彼が自分で行動を起こすまで、わたくしからは行動を起こさないと、勝手に決めた。

焦らして、焦らされて、じりじりと時間は過ぎていく。

 

肩に触れた手に、どくんと鼓動が一段と大きく打った。

名前を呼ぶまで振り返らない。

だから、早くわたくしの名前を呼んで。

 

「っ!」

 

背中から思い切り抱きしめられた。

まさか、そう来るとは想像も出来なかった。

 

また、思い知らされる。

また・・・、わたくしの負け。

 

彼には適わない。

 

「ヒイロ」

 

名前を呼ぶと、彼はその手を離した。

振り返る。

「あなたって、わたくしを困らせる天才だわ」

「・・・同じ言葉をそのままお前に返す」

「そう・・・。では、わたくしの完全な負けではないのね。

だって、あなたを困らせることが出来たんだもの」

「俺を困らせて楽しいのか?」

彼は不満そうにわたくしを見た。

「ええ、とっても」

わたくしは真面目な顔で答えた。

「だけど、わからないことがあるわ」

「何だ」

「どうして、同じ手に何度も引っかかるのかしら。わたくしもあなたも」

「それは」

と、彼はそう言ったきり口を噤んだ。

「それは?ヒイロ。教えてくださらないの?」

彼はわたくしから視線を反らし、とても言いにくそうに顔を歪めた後、

ぽつりと答えをくれた。

 

「惚れた弱みだ」

 

Fin 

「あとがき」
今回は「は行」の「ほ」です。
というわけで、今回のお話ですが、最初は「惚れ薬」という題名で書こうと思ったのですが、書けませんでした。
で、今回の「惚れた弱み」という題名に変えたんですが、これまた書けない。
でも、何とか書きたくて、書き掛けで放ってあったネタをそのまま冒頭へ持って来て、
続きを書いていきました。命拾いしたわ。

というわけで、「は行」が完了!次回は「ま行」へ突入だー。
頑張りましょう。
2004.12.12 希砂羅