「部屋〜その腕の中、わたくしは幸せに満たされる〜

 

 大きな窓がある部屋で、一人、ぽつんと佇んでいた。

待ち人来ず・・・と一人つぶやいて、ため息をつく。

寂しくはない。

いつものことだから。

慣れているわ。

そう、自分に言い聞かせて、近くにあった椅子に腰を下ろした。

 

少し眠ろう。

仕事が片付かず、睡眠を削ってようやく片付けられた。

眠らなければ・・・。

そう思うのに、目を閉じても眠れそうにない。

どうしてなのか、自分でもわからない。

眠りたいのに、眠れない。

その葛藤が、苦しい。

落ち着かない。

何かが足りない。

静かな部屋に、何かが足りない。

それが何なのか、わかっていても、言葉に出すことは出来なかった。

寂しさが余計に増すだけと、わかっているから。

それでも・・・。

一度思ってしまったら、その考えからは抜け出せない。

自然と浮かぶ涙。

抑えられない、その涙。

胸が苦しかった。

助けてほしいと、何かにすがりたい気持ちになる。

両手で顔を覆った、まさにその時・・・。

 

小さなため息。

それは、大きな窓の側から・・・。

ハッと顔を上げる。

涙は自然に止まった。

そのシルエットを見た時に。

 

「・・・眠れないのか?」

部屋に響くその静かな声に、胸を苦しめていたものは自然と消滅した。

 

「あなたがいないから」

自然に出たその言葉に、自分で思い知らされた。

一生懸命、それは考えずにいようと思っていたのに。

彼の声を聞いた途端、その壁は簡単に壊された。

 

彼の腕が、こちらに伸ばされた。

両手を広げ、まるで、この胸に飛び込んで来いとでもいうように。

無言で差し出されえるその手に、素直に従った。

椅子から立ち上がり、ゆっくりと彼に近づく。

「ヒイロ」

初めて彼の名前を呼ぶ。

「リリーナ」

彼もわたくしを名前で呼んだ。

それだけで、満たされた。

彼の手を取り、自分の頬に当てた。

彼のぬくもりを確かめる。

幻ではないと。

 

わたくしを包むその手に、安堵以外の何があろう。

わたくしはこの手を待っていた。

 

この腕の中、わたくしの心はようやく満たされた。

何物にも変えられない幸せに・・・。

 

Fin

 

「あとがき」
今回は「は行」の「へ」です。うん、いいんじゃないでしょうか。
まあまあ、納得のいくものが書けたと、自分では思うんですが、いかがでしょうか。
サブタイトルまで付けちゃった。
「部屋」だけじゃ何か寂しいし、かと言って他に題に使えるような「へ」の付く言葉が思いつかないし。

いいんです、これで。
はい、というわけで次回は「ほ」。
頑張りますわ〜。
2004.12.12 希砂羅