「氷雨」

 

氷のように冷たい雨に打たれ、行き場を失くす。

立ち尽くし、何もない空を見上げて、霞む視界に、何も映らない。

彷徨って、彷徨って、何処へ行こう?

荷物も持たず、旅人にもなれない。

 

何もない。

真っ白な画面を見つめ、小さくため息。

外は雨。

冷たい雨。

優しくも、激しくもない、雨。

わからないのは、明日の行方と、あなたの心。

離れたままでは、何も見えない。

何処にも行けない。

彷徨うことも、出来ない。

 

 待っている。

そう、心の奥では小さな期待。

光の消えた窓を見上げ、影を見つけることも不可能。

けれど、小さな期待に心は揺れ、窓を見上げたまま立ち尽くす。

  

待ち人来ずと、あきらめた心。

寂しさを眠りで誤魔化すために、ベッドに潜り込む。

けれど・・・。

消した電灯に手を伸ばす。

  

窓から漏れた、小さな光。

開く窓に、彼女が見えた。

言葉は無く、ただ、彼女を見上げたまま立ち尽くした。

  

言葉は出ない。

ただ、嬉しいと心は緩む。

その心のままに、彼を見つめた。

 

 雨が降る。

冷たい雨。

だけど、優しい雨のような気もした。

  

「風邪をひきます」

彼女が傘を差し掛ける。

「・・・言い訳は後で聞くわ」

彼女は小さく零し、けれど、微笑んだ。
 

雨が止んだら、彼女をどこへ連れ去ろうか・・・? 

Fin

 

「あとがき」

今回は「は行」の「ひ」です。仕事中に「ひ」の付く言葉を考えていまして、
「秘めた〜」とか「瞳の〜」とか、いろいろと考えた末に出てきた言葉が「氷雨」でした。
暗い話になるかな、とも思ったんですが、最後は、リリーナがヒイロに傘を差し掛けるシーンを書きたかったので、
何とかその場面へ持っていけるように頑張ってみたんですが・・・。

今回も例により、繋がっているんだか、繋がっていないんだか・・・な文を並べてみました。
 というわけで、次回です。次回は「ふ」ですね。頑張ります。
2004.12.9 希砂羅