「浜辺にて」

 

波が揺れる。

夕日が沈む。

黄昏がゆく。
 

「また一人で何か考えてるのね?」

隣に立つ妻が、少し拗ねた顔をして俺の顔を覗き込む。

「いや・・・」

と、いつもの返事を返すも、その表情を見ると、信じてはもらえそうにない。

だから、仕方なく素直に答えることにした。

「・・・出会った頃を思い出していた」

「・・・そう」

小さく頷いた妻の手が、俺の手をそっと握る。

「あなたの中で、それが良い思いでとして記憶にあるのなら、わたくしは幸せです」

妻を見ると、そう微笑んで言った。

そんなことを言う妻に目を見張る。

確かに、あの出会いがなかったら、こうして妻と並んでいる今は、なかっただろう。

それを思うと、あの出会いは、今の自分にとって、“良い思い出”なのかもしれない。

そっと、妻が俺の腕に寄り掛かる。

そのぬくもりに、“幸せ”を感じる。

「後悔なんて・・・していないでしょう?」

小さく、妻が言う。

「・・・ああ」

頷く俺を、妻は真っ直ぐに見つめた。

その優しい眼差しに、胸が締め付けられた。

この腕に強く抱きしめたい衝動を抑え、優しく抱きしめた。

今、妻のおなかの中には、小さな命が宿っている。

「リリーナ」

妻の耳元で囁くと、ピクリと妻の体が震えた。

その反応が可笑しくて、いたずら半分にその耳を甘噛みする。

「やっ・・・もう・・・」

咎めるように見つめられ、分かっている、と頷く。

「大事な身体だ、無理なことはしない」

「・・・でも、キスは、許すわ」

そんな妻の言葉に素直に甘えて、その小さな唇に口付けを落とす。

 

“愛している”

そう心でつぶやきながら・・・。

 

Fin

 

「あとがき」
今回から「は行」に突入。というわけで、「は」です。この話を書くのに2日かかりました。
いつものごとく、深いことは考えずに、ただ思いつくままに書いていったのですが、
途中で書けなくなって、そのまま放棄。
で、次の日に続きを書きました。内容としては、「あ行」の「命の響き」の前の話、でしょうかね。

まあ、この夫婦ものを書くと、「ラブ度」に制限なく書けるのが嬉しいですね。
そんなわけで、ラブラブです。

 さて、次回は、「ひ」ですね。
次回も頑張ります。
2004.12.7 希砂羅