「脱いだ服」

 

目覚めると、床に無造作に脱ぎ散らかされた服があちらこちらに落ちていた。

それを見た途端、昨夜のことが思い出され、一人、顔を赤くする。

隣では、服を散らかした本人が、まだ寝息を立てている。

お気に入りのブラウスも、今は皺くちゃだ。

拾って見ると、ボタンが2つ取れていた。

ストッキングにいたっては、見事に電線してしまっている。

「それ」に夢中になると、次の日の朝のことなど、想像することもできない。

それは自分も同じだから、彼ばかりを責めるわけにもいかない。

 

とりあえず、彼が目覚める前に散らばった服を拾おうとベッドから抜け出そうとした時、

ふいに腕を引っ張られた。

振り向くと、起きた彼がこちらを見ていた。

「起きたのね」

「・・・どこへ行く?」

何故か不機嫌な彼の声に、何を誤解しているのかと苦笑してしまった。

「どこへも行かないわ。ただ、落ちた服を拾うと思っただけよ」

「落ちた服・・・?ああ、俺が“脱がした”服か」

わざと言い直す彼に、返事に困ってしまい、仕方なく黙り込む。

そんなわたくしを彼は不満そうに見つめると

「本当のことだろう・・・?」

「・・・知りませんっ」

わたくしの腕を掴む手を引き剥がし、ベッドから降りた。

 

どこまで彼は冷静なのだろう。

わたくし一人が恥ずかしがっているようで、何だか悔しい。

シャワーを浴びる為にバスルームへ足を向けかけて、ふと振り返ると、

床に散らばった服を拾っている彼がいた。

彼もまた、皺になったシャツを見て、ため息をついていた。

そんな彼が可笑しくて、小さく笑った。

 

ごめんなさい、そのシャツを脱がしたのはわたくしだったわ・・・。

 

Fin

 

「あとがき」
今回は「な行」の「ぬ」といわけで・・・。
「ぬ」・・・。「ぬ」って何さ!っていう感じでキレそうでした。
「ぬりかべ」とか「ぬし」とかぐらいしか思いつかなくてね。
でも、何とか「脱ぐ」っていう単語が浮かんだので、今回はこんなお話。
ああ、なんだろう。色気があるような、無いような、微妙な感じね。

さて、次回は「ね」ですね。「ね」・・・かあ。何があるかしら・・・。
2004.11.27 希砂羅