「名前の無い花」

 

名も知らぬ花が、そこにある。

実も付けず、ただ、儚く花を咲かせて。

周りには何もなく、孤独に咲いている。

まるで、自分のようだなと、ぽつりと思ったりする。

 

ヒイロ・ユイ。

それは「名前」ではなく、「コードネーム」

任務を支障なく遂行するためには必要だった、「コードネーム」。

 

本当の名前など、いらなかった。

任務を問題なく遂行出来れば、それで良かった。

 

けれど、それは・・・愛を知るまでのこと。

 

彼女と出会う前までのこと。

 

俺が「コードネーム」を名乗る限り、俺と彼女は対等の位置にはなれない。

否、自分は偽者だから。

本当の自分を遠い昔に置き去りにして、この16年間を生きてしまった。

その罪は、どうしたら拭えるだろう。

 

 

「そんなことで悩んでいるの?」

“そんなこと”と彼女は軽く言ってのけた。

「それはあなたの罪ではないのに。償うべきは、全世界、ね。

戦いという過ちを生み出してしまった、この世界よ。

だから、あなたが一人で悩む必要なんて、これっぽちも無いのよ。

もし、どうしても、あなたが“それ”をあなたの罪とし、償いたいと思うのなら・・・」

「思うなら・・・?」

彼女は俺を真っ直ぐに見つめた。

「生きて」

「・・・・・・」

「世界は変わるわ、きっと。いえ、わたくしたちが変えていかなければならないの。

同じ過ちを繰り返さないために。そのためには、あなたの力も必要なの。

わたくしにも、あなたは必要なの」

「・・・リリーナ」

「ヒイロ」

彼女は微笑み、俺の手を優しく包んだ。

 

 

小さく、寂しく孤独に咲いていた花のもと、小さな種が舞い落ちる。

孤独だった花に、新たな生きる力を与えるため。

それは舞い降りた。

それが彼女なのだと、ふっと思った。

彼女の側で、生まれ変わる自分自身を感じた。

 

孤独も時には生きる手段。

けれど、いつかは日の光を求める。

それは人も同じこと。

人は、いつかは誰かを求めずにはいられない。

自分にとって、それが彼女なのだと・・・。

それを言ったら、彼女はどんな顔を見せるだろう。

 

Fin

 

「あとがき」

先回の「た行」から少し間が空きましたが、今回から「な行」へ突入です。
「な」は、最初から「名前」という題名で(内容で)書くつもりでいたんですが、
どうもはっきりとした内容のものが思い浮かばず、ぐずぐずしておりました。
今回、思い切って書いてみましたが、何か、難しかったです。
一番最後の締めの言葉も何か曖昧で、まだ文が続きそうな終わり方になってしまって、
それも心残りですが、上手い言葉が浮かばず、Finにしてしまいました。うー、口惜しいわ。

さて、次回は「に」ですね。頑張りますわ。 
2004.11.26 希砂羅