「あなたの胸で 声で 腕で」
 
「抱いてもいいか」
俺の口をついて出た言葉は、彼女を驚かすのに十分だった。
彼女は何も言わない。
ただ黙って俺を見つめ返すだけ。
やがて、頬を赤く染めた顔を俯かせてそっと顔を逸らす。
沈黙が堕ちた。
重くもなく軽くもなく、微妙な空気。
「冗談だ。気にするな」
俺が放った言葉に、彼女は顔を上げ、なぜか傷ついた顔。
なぜそんな顔をする?
しかし、彼女は思い直したように笑顔を浮かべた。
「・・・そうよね。ごめんなさい、私ったら本気にして困ってしまったわ」
「・・・お前が望むなら・・・」
「え?」
「いや、何でもない」
なぜかもどかしい雰囲気。
「・・・抱いてください」
彼女が言った。
聞き間違いかと思った。
見つめ返した彼女は真剣な目をしていた。
「こんなことを言うのは、私らしくないですか?」
「・・・お前が望むなら」
もう一度繰り返し、彼女を引き寄せ、抱きしめる。
重なる唇。
「・・・早く、わたくしの望みを叶えて」
耳に届いた彼女の言葉は、ひどく甘く響いて、俺を狂わせるのに十分な力を持っていた。
俺の本能が彼女を求める。
それはとても、自然なこと。
彼女から俺を求められるのは、変な気分だったが。
だが、嬉しかった。
彼女が俺を求めてくれる。
彼女が俺を必要としてくれる。
だから、俺はこうして人間らしく生きていられる。
 
「抱いてください」
自分からこんなことを言ったのは初めてだった。
彼の手で寝室に運ばれる。
ベッドに寝かせられ、彼がすぐに覆いかぶさってくる。
しかし、彼はすぐには事に至らなかった。
「・・・ヒイロ?」
彼は黙って髪を梳いた。
急に不安になる。
まさか、彼は私を抱く気はないのだろうか。
本当に、冗談で彼はあれを言ったのだろうか。
だが、次の瞬間、彼は私の唇を塞いだ、彼のそれで。
徐々に深くなる口付けに声が漏れそうになる。
差し込まれる舌に、舌を絡められ、濡れる音がする。
恥ずかしい・・・。
彼は唇を塞いだまま、私の服を徐々に脱がしていく。
肌が露にされる。
ヒイロにすべてを見られることが恥ずかしくもあり、恐くもあった。
これは自分が望んだことであるが、やはり恐かった。
そんな私の心情に気づいたのか、彼の動きが止まる。
「ヒイロ・・・?」
「後悔しているのか?こうなったことを」
彼の言葉に驚いて彼を見つめ返す。
彼の顔が傷ついているように見えるのは気のせいだろうか。
手を伸ばし、彼の頬に触れる。
「いいえ、これはわたくしが望んだこと。後悔などしていません」
彼の傷ついた顔を見ていたくなくて、微笑んだ。
だから、お願いだからそんな顔をしないで、ヒイロ。
「リリーナ・・・」
あなたがわたくしの名前を呼ぶだけで、こんなに幸せなのです。
彼の傷ついた顔が、優しい表情に変わる。
幸せです、ヒイロ。
彼が優しい口付けをくれる。
彼の背に腕を回し、口付けに答える。
深く長い口付けの後、彼の唇が顎を滑り、喉を吸い上げ、鎖骨に軽く歯を立て、やがて胸元に落ちてくる。
髪を撫でていた手は、胸の膨らみを掴み、揉みあげる。
声が漏れる。
これが自分の口から漏れる声だと気づくと、恥ずかしくて目を閉じた。
しかし、目を閉じると余計に身体は敏感に反応する。
片方の手は腰のラインを辿り、やがては一番敏感な部分に下着の上から触れた。
そこは駄目っ。
いくら抵抗を見せても彼はさらにそこの愛撫を激しくしていくだけ。
彼はいとも簡単に下着を脱がしてしまった。
彼の指が、直接そこに触れる。
指で擦られ、指を挿入された。
挿入した指が中を掻き回す。
濡れた音がする。
恥ずかしさで閉じかけた足を押し広げられた。
そして、彼の顔がそこに埋められた。
「っ!」
熱い物が触れる。
それが彼の舌であると気づくと、羞恥に喘いだ。
猫が皿のミルクを舐める時のような濡れた音。
彼はわたくしのそれを舌で舐め上げる。
恥ずかしい・・・。
けれど、感じてしまっている。
その強い快感に溺れ始めている自分。
彼はそこを舐めあげながら、両手で胸を揉みしだく。
喘ぎすぎて、喉が渇く。
やがて、苦しいような快感が終わった。
彼がそこを愛撫するのを止めたのだ。
息を弾ませ、彼を見る。
彼の口元が濡れている。
それはとても妖しい光を放っていて、目を奪われる。
彼の口元に触れ、指で拭った。
指に絡まる、自分のそれ。
狂ってしまいそう。
彼は自分の唇についたそれを舌で舐めとった。
瞳を絡め、唇を重ねる。
激しい程の深く長い口付けからようやく開放されたと思ったのもつかの間、彼は自身を打ちつけた。
初めてではないとはいえ、まだ慣れなくて、少し恐い。
彼にしがみつく事で必死に耐える。
恐いけど、嬉しい。
彼は私を必要としてくれている。
それが言葉で伝えてくれなくても、心に伝わるから、嬉しい。
 
 
事が終わり、肩を並べて天井を見つめる。
肩に回された彼の腕の暖かさで、全ての不安は消える。
瞳を絡めると、唇を軽く重ねる。
あなたが好き。
この気持ちは誰にも負けない。
あなたを誰にも渡さない。
「リリーナ・・・?」
唇を離した彼が訝しげに見つめるので、私は首を傾げる。
「何を考えてる?」
「え?」
「何か考えてただろう?」
彼には私の考えは何でもお見通しなのかもしれない。
嘘をついても彼にはきっとすぐに見破られてしまうだろう。
私が答えないので、彼はさらに眉間に皺を寄せる。
それはどこかすねたような表情。
何だか、そんな彼を見るのは楽しい。
「教えません」
「なぜだ」
「だって・・・。恥ずかしいもの」
「恥ずかしい?」
「ええ。だから教えません」
「言え」
「教えませんってば」
「・・・もう一回抱いてやろうか?」
「っ!・・・バカ」
「・・・言うか?」
彼の顔が間近に迫り、唇同士が触れるか触れないかの距離まで近づいた。
「・・・・・・あなたが好きです」
耐えられなくて、ついに告白する。
彼の身体が硬直する。
言わなければよかったと後悔する。
また彼を困らせてしまった。
「・・・いいんです。何も返事を返してくれなくても。私は無理にそれを望みません。あなたがわたくしを大切に想ってくれる気持ちはきちんと私に伝わっているから。また、あなたを困らせてしまうかもしれないけれど、言わせて下さい。・・・あなたを好きな気持ちは、誰にも負けません。あなたを誰にも渡したくないの」
「リリーナ・・・」
彼は、私を抱きしめてくれた。
「・・・ヒイロ」
私も彼を抱きしめかえす。
「また、あなたを困らせてしまいましたね」
「・・・お前は素直だな」
「わたくしが?」
「・・・俺もお前みたいに素直に相手に気持ちを伝えられたら、いいのだが」
「・・・無理しないでください」
「だが、お前は寂しいのだろう?」
彼に指摘されて、えっとなる。
「顔を見ればわかる」
「・・・あなたに隠し事はできませんね。あなたは上手にわたくしに嘘をつくのに」
「俺がいつ嘘を?」
「ついたじゃない。・・・お前を抱きたいって・・・」
「あれは、本気で言った・・・んだが」
彼の声が上ずる。
彼にしては珍しいので、彼の顔を見上げる。
彼の顔が赤く見えるのは気のせいだろうか。
「ヒイロ?」
「お前が困った顔をするから・・・」
「それで冗談だ、って言ったの?」
「・・・ああ」
照れを隠すように顔を背ける彼が、すねた子供のようで、かわいく見える。
新しい彼を発見したようで、何だか嬉しい。
あなたが好き。
そんな気持ちで、彼の胸に口付けた。
「・・・リリーナ?」
「あなたが好きです」
彼に笑顔を向ける。
「リリーナ・・・」
彼が強く抱きしめる。
「・・・愛してる」
え?
囁かれた耳が熱い。
初めて言ってくれた。
嬉しくて涙がこぼれた。
あなたがいれば、もう何もいらない。
「愛しています、ヒイロ」
あなたを・・・ずっと・・・これからも・・・
 
Fin
 
「あとがき」
 とあるガンダムWの小説を置いてあるサイトに「裏」というコンテンツがあるのを発見しまして、そこにはいわゆる18禁の小説がおいてありまして、私も挑戦してみようと思って、今回、こうして書いてみたんですが、うーん・・・・ただのラブコメがいいです、私は。でも、いつになく2人がラブラブに感じるのは書いた私だけでしょうか。希砂羅