「王子様と王女様」
 
第3章 6.愛すること・愛されること
 
「わたくしって、過保護かしら・・・」
ある時、リリーナがぽつりとつぶやいた。
「過保護?」
「リヒターとマリーが可愛くて仕方ないの。だから、ついつい甘くなってしまうわ。あなたは違う?」
「俺は、仕事が増えてからあまり構ってやっていないからな」
「そうね」
「で?何で急にそんなことを思うようになったんだ?」
「今のまま、甘えさせて育ったら、将来に響くかしらって、思って」
「リヒターとマリーはまだまだ子どもだ。甘えさせておきたい時に甘えさせておけばいい。それに、今まで甘えさせてきたのに、急に態度を変えたら、子どもは傷つく」
ヒイロはまるで自分のことを言っているかのようにリリーナは感じた。
「あなた・・・。わたくし、あなたの本当のお母様のこと、まだ聞いたとこなかったわね」
「聞きたいのか?」
「さっきの言葉、まるで自分のことを言っているように聞こえてしまったから・・・」
ヒイロはリリーナに背を向け、窓から遠くを眺めた。
「話したくないと言うのなら、無理には聞きません」
と、リリーナは部屋を出て行こうとした。
その時
「母は優しかった・・・」
ヒイロがつぶやくように零したので、リリーナは足を止め、ヒイロの背中を見つめた。
「だが、厳しくもあった。俺は一人っ子で、唯一の跡取りだ。否が応でもいずれはこの国の王となり、この国を守ってゆかなければならない。そのためには、さまざまなことを学ばなければならなかった。俺が6歳になった時、教育係りを付けられた。それからは、母の態度は一辺した。俺を急に大人扱いしだした。俺にはそれはとても辛かった。そして、母とあまり個人的な話をすることなく俺は、突然の母の死を迎えることになった。それから・・・もう11年・・・か。月日が過ぎるのは早過ぎるな」
リリーナはヒイロの背中を黙って抱きしめた。
言葉よりも態度で、心で、リリーナはヒイロに触れたかった。
ヒイロは目を閉じた。
「俺は、愛されたかった・・・」
「・・・人は、愛を求める動物です。誰もが、愛されたいと願っている。だからこそ、男と女は惹かれ合う・・・。だからこそ、わたくしたちは惹かれ合った・・・。わたくしはそう思います」
「ああ、そうだな・・・」
ヒイロはリリーナの手に自分の手を重ねた。
「あなたは、優しく大きな愛でわたくしを包んでくれる・・・。だからこそ、わたくしは強くいられる。あなたがわたくしと子どもに与えて下さるのは、とても大きなものなのです。だからこそ、わたくしは時々不安になる。わたくしはあなたへ十分な愛を、返せているだろうかと・・・」
「リリーナ・・・」
「愛は見るものではなく、心で感じ取るものです。だから、怖いのですよね?見えないから・・・」
「ああ・・・。お前と出会って、初めて人を愛することを知った・・・。ずっと、心の奥で望んでいたんだ。人を愛し、愛されることを。だから、政略結婚だけは嫌だった。そんな時、お前に出会ったんだ。お前と出会って、お前なら、愛せると思った・・・」
「わたくしはあなたと出会って初めて、“運命”というものを信じることができました」
「ああ・・・」
ヒイロはリリーナの手を解くと、振り向き、正面から抱きしめた。
「ヒイロ・・・」
「お前は、俺に本当の愛というものを教えてくれた」
「それは、あなたも同じです。あなたは気づいていないかもしれないけれど、あなたがいたから、わたくしは運命を乗り越えることが出来たんです」
2人は見つめあう。
そして、唇を重ねた。
 
第三章終わり
 
「あとがき」
いやーん、終わったー。無事、打ち終わりました。お疲れ様、私。今回、章の中でも細かく(なるべく)分けたので、そんなに分量としては多くは感じませんでした。でも、肩が凝りました。うん、それにしても、これが高校生の書く内容か・・・?(苦笑)
 
2004.2004.2.11 希砂羅