LOVE AND PEACE
−NOT ALL OF PEOPLE ARE HAPPY−
(3)
 
事件から数日後。
「こんにちは」
午後3時頃、リリーナが突然、プリベンターの職場を訪れた。
「あ、リリーナさん。ヒイロは今丁度、仕事で出てしまっているんです」
出迎えたカトルが申し訳なさそうに言った。
「いえ、いいんです。それより、皆さんもお仕事中でしたかしら」
「今、きりがついたところで。丁度3時なんで、お茶でも飲もうかと思っていたところです」
「そうですか。でしたら、丁度良かったですわ。実は、ケーキを焼いて来たんです。皆さんに召し上がっていただこうと思って」
「わぁ、本当ですか?ありがとうございます。皆も喜ぶと思います。さあ、どうぞ。上がってください」
カトルに案内され、ロビーに行くと、デュオとトロワがコーヒーを飲んでいるところだった。五飛はサリィと出張らしい。
カトルと共に入ってきたリリーナにデュオが気づいて顔を上げた。
「あれ、お嬢さん。どったの?」
「こんにちは。お休みは今日までなんです。昨日まで家で体を休めていたんですけど、もう、調子が戻ったので。ケーキを焼いたんです。皆さんに食べていただこうと思って」
リリーナは皆ににっこりと挨拶した。
「へえ、手作りケーキかあ。いいねぇ。でも、残念だったなあ」
「え?」
「ヒイロがいなくて」
「いいんです。いつでも会えますから」
「そ?でも、ヒイロのやつ、あのリリーナさんの事件以来、妙にはりきっちゃってさ。ほとんどの仕事、一人で引き受けてんだよね。まあ、あいつのことだから過労で倒れる、なんてことは無いと思うけど」
「そうなんですか」
「ま、これは俺が勝手に思ってるだけだけど。たぶん、こんなに頑張ってるのは、きっとお嬢さんのためだぜ」
「わたくしのため・・・?そんな・・・」
リリーナは皆に切り分けたケーキを配りながら照れている。
「まさか、“結婚資金”・・・だったりしてな」
にやり、とデュオが言う。
「え?」
と、リリーナが驚いてデュオに顔を向けた時、タイミングを図ったかのようにヒイロが仕事を終えて帰ってきた。
「あ、お帰り。ご苦労様」
カトルがヒイロの席を空ける。
ヒイロはロビーに入ってきて、立ちすくんだ。
ヒイロの視線はもちろん、リリーナに向けられている。
「リリーナ・・・。どうしてお前がここにいる」
「あ、皆さんにケーキを焼いて来たのよ。それくらい、構わないでしょう?はい、あなたの分」
ヒイロはまだ何か言いたそうにリリーナを見つめていたが、小さくため息をつき、ケーキを受け取った。
しばらく、互いの近況を話し、談笑した後、リリーナは腕時計で時間を確かめ、腰を上げた。
「あれ?お嬢さん、もう帰るのか?」
「ええ。あまり長居してはお邪魔でしょうから」
「そんなことないですよ」
カトルが慌てて言う。
それをリリーナは首を振って断った。
「いえ、もう失礼しますわ。ありがとう」
「ま、無理には止めないけどな。ケーキ、ごちそうさま。上手かったよ。気を付けて帰れよ」
「ええ。ありがとう。それでは、また」
と、微笑み、最後に一礼して出て行こうとすると、ヒイロが立ち上がった。
「リリーナ、俺が送っていく」
「でも、お忙しんでしょう?」
「構わない」
「でも・・・」
と躊躇うリリーナに
「遠慮せずに送ってもらいな」
「そうですよ」
ディオとカトルが後押しする。
「ありがとう。それでは、お願いするわ、ヒイロ」
ヒイロは頷くと、2人は並んで出て行った。
2人が出て行くと、残った3人は、内緒話をするかのように顔をつき合わせた。
「あの2人、どこまで進んだと思う?」
「2人で並んだ姿もだいぶ馴染んできましたよね」
「いつの時代も男と女という生き物は・・・」
「ヒイロの奴、ここ最近、目つきが違うもんな。何か、一生懸命っていうかさ。止めなきゃ、来た仕事は全部引き受けそうな雰囲気だしさ」
「やっぱり、デュオの思うとおり、なんでしょうかね」
「結婚資金、か?ああ、まんざら嘘じゃないかもなぁ」
「ヒイロも普通の男だったんですねぇ」
「まあ、そういうことだろ」
「いつの時代も男と女という生き物は・・・」
「だから、それはもういいっつうの!」
 
 
車に乗り込むと、ヒイロがふいに口を開いた。
「あのケーキ、お前が作ったのか?」
「ええ、そうよ。意外だった?」
「お前が料理を出来るとは思わなかった」
「くすっ。作り始めたのは最近だもの。いつか、ご馳走してあげるわ」
リリーナは微笑むと、そういえば、と小さくつぶやいた。
「最近、お仕事張り切っているんですってね。デュオさんが言っていたわ。どうして?」
「それは・・・今はまだ言えない」
「そう・・・」
と呟いたところで、リリーナのマンションに着いた。
ありがとう、とリリーナが車から降りると、ヒイロが呼び止めた。
「今度来る時は事前に連絡しろ」
「ええ、気をつけるわ。今日は突然でごめんなさい」
「ああ。それから、さっき言い忘れたんだが・・・」
と、ヒイロは少し顔を背け
「あのケーキ・・・」
「ええ」
「・・・上手かった」
「・・・・・・」
ヒイロの言葉にリリーナは少しの間、固まり、やがて綺麗に微笑んだ。
「ありがとう」
 
「あとがき」
はははぁ。これはまあ、何だろう、こういうほのぼのとした話も間に無いとね。何て思ってみたり。ですが、実は次の話も、こんな感じなのです。これを通り過ぎれば、一つの大きな事件が起きますが・・・。まあ、それは、後のお楽しみということで、もうしばらく、2人のほのぼのラブをお楽しみください。
 
2004.8.3. 希砂羅