「初めてのホワイトデー」
 
ヒイロは悩んでいた。
ヒリオにあの質問をされてから・・・。
 
それは、ヒイロが会社から帰って来た時のこと。
部屋を訪れたヒリオがこう切り出した。
「ねえ、父さん。相談なんだけど・・・」
ヒイロは渋い顔で息子を見た。
(何で、僕が相談を持ちかけると父さんはこんな顔をするのかな・・・?)
ヒリオは不思議に思いながらも、あのね、と続ける。
「2月のバレンタインデーにね、母さんと学校の女の子たちにチョコレートをもらったんだけど。で、3月はホワイトデーがあるよね。この日って、チョコをもらった子に男がお返しをする日なんだよね?」
「・・・そう、だな」
「でね、何をあげたらいいのかなって、思って。父さんは、母さんに何をあげるの?」
「まだ、決めていない」
「そうなんだぁ」
「お前は、リリーナに何をあげる?」
「いや、それを相談してるんだけど・・・」
「そうか・・・そうだな・・・」
ヒイロは渋い顔のまま黙り込む。
「もしかして、父さん。忘れてたなんてことは・・・」
「・・・・・・」
ヒイロは黙り込んでしまった。
(図星ですか?父さん・・・)
「・・・悪いな、相談に乗れず・・・」
暗い声で答えると、ヒイロはバタンと部屋のドアを閉めてしまった。
廊下にポツンと残されたヒリオは、うーんと唸りながら自分の部屋へ帰っていった。
 
 
まずいな・・・。
ヒイロはまだ考え込んでいた。
去年は何をあげた?
ドレス・・・。
あれは誕生日か。
ピアス・・・、あれも誕生日か。
なぜだ、なぜ肝心なホワイトデーだけが思い出せないんだ!?
 
 
そして迎えたホワイトデー当日。
「リリーナ。こっちに来い」
夕飯を終え、一段落した後、ヒイロはリリーナをリビングへ呼んだ。
「どうしたの?あなた」
隣に座るリリーナに、ヒイロは黙って、綺麗にラッピングされた箱を差し出した。
「何かしら」
不思議な顔で、リリーナは箱とヒイロの顔を見比べる。
「何って、今日はホワイトデーだろう」
ヒイロが言うと、リリーナは目を見開き、驚いた顔でヒイロを見つめた。
「何だ。何を驚いている」
「だって・・・。あなた、毎年忘れているのに・・・。あなたの口からホワイトデーという言葉が出るなんて思いもしなかったから。普通に驚いてしまったわ。それに、今年も忘れているだろうと諦めていたところだったから」
「毎年忘れている・・・?ということは」
「ええ。これは、あなたが“生まれて初めてわたくしにくださるホワイトデーのプレゼント”ですわ」
リリーナはにっこりと答える。
なるほど・・・。
どうりで思い出せないわけか。
あげていないのに思い出せるわけがない。
「すまない・・・」
ヒイロは素直に頭を下げた。
「やだ、顔をあげてちょうだい、あなた。謝ることではないわ」
「だが、毎年、楽しみにしていたのではないのか?俺からのお返しを」
「正直に答えろと言われればそうですけど・・・。でも、いつも、わたくしの作る料理を文句も言わずに残さず食べてくださるでしょう?それだけで、わたくしの心は満たされているんです。それが、わたくしはあなたからのお返しだと、思っていますわ」
「リリーナ・・・。ありがとう」
「いいえ。ありがとうを言うのはわたくしの方よ。いつも、ありがとう、あなた。このプレゼントも、ありがとう。とても嬉しいわ。開けてみてもよろしいかしら?」
「ああ」
「何かしら」
リリーナは丁寧に包装を解き、箱を開けた。
「あら、綺麗なブローチ。素敵だわ。ありがとう、あなた。大切にします」
「すまない。正直、忘れていたんだ。そんなものですまない。本当はもっと良いものを」
そう言い掛けるヒイロの唇を、リリーナは人差し指で塞いだ。
「これ以上に素敵なものが?モノではないのよ、あなた。大切なのは、その人の気持ちです。プレゼントがブローチだろうが、他の何かだろうが、わたくしにとっては、あなたがわたくしを想ってくださる、その気持ちが、宝物なんです。それは何ものにも変えられない、大切な物だから」
「リリーナ・・・」
ヒイロは唇に置かれたリリーナの人差し指をそっとどけると、代わりにリリーナの体を引き寄せ、リリーナの唇で自分の唇を塞いだ。
 
 
その頃、廊下で出るに出られない状況に陥ったヒリオがポツリと佇んでいた。
リリーナにプレゼントを渡すため、ここまで来たはいいが、ドア越しに聞こえてきた両親の会話に、中に入りたくても入れない状況になってしまった。
(どうしよう・・・。思い切って入っちゃおうかな。でも・・・最中だったら気まずい・・・)
悩む少年。
(あきらめて母さんの机の上に置いておこう)
そう決断したヒリオは、なるべく足音を立てないよう気をつけながら、ドアを離れた。
 
何だかんだいって、ホワイトデー、無事終了。
 
 
「あとがき」
ようやく書けたなり〜。
バレンタインデーが夫婦ものだったので、ホワイトデーも合わせて夫婦物で書くことにしました。すらすら書けず、何度もボツにしようかと思いました。
んが、何とか書けた。
久しぶりに小説を書いたので、ちょっと新鮮です。
 
次回は何を書こうかしら。
 
2005.3.5 希砂羅