「王子様と王女様」
 
第3章 3.母の死
 
 リヒターが4歳になった時、リリーナの育ての親である母親が病気で亡くなった。
母親の葬儀は、城の中で静かに執り行われた。
葬儀の間中、リリーナはヒイロに支えられながら静かに泣き続けた。
 
葬儀が終わり、埋葬も済ますと、ヒイロとリリーナは部屋へ戻った。
リリーナは涙に濡れた瞳で窓から外を見つめていた。
しばらくはそのままぼーとしていたが、ようやく心が落ち着いたのか、ヒイロに振り返った。
「母は厳しいところもあったけれど、優しい人でした。体が弱いのに、わたくしを育てるために一生懸命働いてくれました。けれど、さすがに無理がたたって、体を壊し寝たきりになってしまったんです。そして、生活を支えるために今度はわたくしが働き始めたのです。でも、子どもが出来る仕事なんてそうそうなくて、どこへ行っても門前払い。そんな時に、ヒルデが手を差し伸べてくれたんです。・・・母との生活は貧しかったけれど、幸せでした」
「そうか・・・」
ヒイロはリリーナをそっと抱きしめた。
リリーナの瞳から涙が零れた。
熱い涙が途切れることなく、リリーナの頬を伝う。
「俺がいる・・・。俺がお前を守る」
「・・・ヒイロ」
リリーナの心にある悲しみの塊が、ゆっくりと溶けてゆく。
 
 
 リリーナの母親の死から1年、リヒターは5歳になった。
そして、リヒターは“お兄ちゃん”になった。
ヒイロとリリーナの間に第2子が誕生したからである。
子どもは女の子で、マリーと名づけられた。
この日から、リヒターはマリーを抱いたリリーナと散歩をするのが日課となった。
「お母様。僕ね、もう少し大きくなったら、僕がマリーを守ってあげるの」
5歳になったリヒターは、リリーナとヒイロのことをお母様、お父様と呼ぶようになった。
「まあ、偉いわね、リヒター」
リリーナはリヒターの前にしゃがむと、優しく頭を撫でた。
リヒターがマリーに笑いかけると、マリーはキャッキャッと笑った。
マリーが小さな手をリヒターへ伸ばす。
その手を、リヒターが優しく包む。
その時、ヒイロがこちらへやって来るのが見えた。
リリーナが立ち上がった。
「あなた。お仕事は?」
「息抜きだ」
ヒイロは伸びをした。
「最近、お仕事が増えましたものね。息抜きは必要ですわ」
「ああ」
「お父様。お仕事大変なの?」
リヒターがヒイロを見上げる。
「ああ。だが、全てはこの国を守るためだからな」
「この国を守る・・・?」
リヒターが首を傾げる。
「お前にはまだ難しいな」
ヒイロはリヒターの頭を撫でた。
「僕ね、大きくなったら、僕がマリーを守るの」
リヒターはリリーナへ言ったことをヒイロにも言った。
「そうか。そのためには強くならなければならないぞ」
「うん。僕、うんと強くなるよ」
リヒターは力強く頷いたのだった。
 
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「あとがき」
ちょっとした息抜きの話・・・にしては重いな。改めて思う。展開が速い。あっという間に1年が過ぎてます。はははは。深いようで浅い。そんな物語であります。
 
2004.2004.2.8 希砂羅