「王子様と王女様」
 
第3章 1.リヒター
 
 暖かな春の風がそよぐある日、ヒイロとリリーナの間に第1王子が誕生した。
リヒターと名づけられた王子は、ヒイロとリリーナの愛情の元に、すくすくと大きな病気をすることなく元気に成長した。
3歳になったリヒターは人懐こく、誰からも愛され、おまけにとても元気で、手を離せばどこへでも走っていってしまう元気な男の子へと成長した。
「リヒター、今日は何をして遊びましょうか」
リリーナがリヒターに服を着せながら尋ねる。
リヒターは生まれた時から乳母の手ではなく、母親、つまりリリーナの手によって育てられた。それはリリーナの望みだった。国王も妃も、リリーナの申し出を快く聞き入れた。
「お外で遊びたい!」
「そうねぇ、今日はとてもいいお天気だものね。お外でいっぱい走り回りたいよね」
「うん!」
「それでは、今日はお外で遊びましょうか」
「うん!おそとであそぶ!」
「それじゃあ、行こうね」
と、リリーナがリヒターの手を引いた時、リヒターもリリーナの手を引いたので、綱引きのような状態になり、リリーナは前に進めなかった。
「どうしたの?リヒター。お外へ行くのではないの?」
リリーナがリヒターの前にしゃがむ。
「パパは?」
「パパはお部屋でお仕事よ」
「パパとも一緒に遊びたい」
リヒターがすねたように唇を尖らす。
「そうねぇ・・・」
リリーナは唸り、よし、と頷いた。
「そうね。パパも誘ってみましょう」
「ほんと?」
リヒターは途端に笑顔になる。
「パパもね、きっとお仕事なんかよりリヒターとお外で一緒に遊びたいと思うわ」
リリーナはウィンクした。
「うん!」
リヒターは元気に頷くと
「早くパパの所へ行こう」
とリリーナの手を引いた。
 
2人はヒイロの仕事部屋の前に来ると、顔を見合わせ、ニッと笑うと
「パパァ!」
と勢いよくドアを開けた。
ドアが開くと、ヒイロとデュオが驚いた顔でこちらを見ていた。
「どうした?」
ヒイロが一拍遅れて尋ねる。
リリーナは照れたように笑うと
「ごめんなさい、お仕事中に。実はね」
と、リリーナが言う前に
「パパァ!」
とリヒターがヒイロの所へ走って行き、ヒイロの膝の上に飛び乗った。
「どうしたんだ?リヒター」
ヒイロがリヒターの顔を覗き込む。
「あそぼう」
リヒターが笑顔で言う。
「おそとであそぶの」
ヒイロはデュオを見た。
「構わないか?」
「駄目、とは言えませんね。リヒター様に嫌われてしまいそうなので。その代わり、明日、きちんと今日の分のお仕事をこなしていただくことになりますよ」
結婚して1年目は町で仕事を見つけては働いていたデュオだったが、何となくしっくりくる仕事を見つけられず、リヒターが生まれた頃から、今度は教育係りとしてではなく、ヒイロの側近として城で働くことになった。もちろん、1日の仕事が終われば、愛する妻、ヒルデと子供の待つ家へと帰るのだが。
「それでは、行くか、リヒター」
ヒイロはリヒターを抱っこして席を立った。
部屋を出て行きかけて、リリーナに振り返った。
「お前も来るだろう?」
「ええ。でも、少しデュオさんとお話しをしてから行きます」
「わかった。庭にいる」
ヒイロはリヒターを抱っこして部屋を出て行った。
それを見送ると、リリーナはデュオに向き直った。
「ごめんなさい、デュオさん。大事なお仕事の途中だというのは重々承知しているのですけど。リヒターがどうしてもヒイロとも一緒に遊びたいと言うものだから」
「いいえ、奥様。お気になさらずに」
デュオはリリーナに優しく微笑み返した。
リヒターが生まれてから、デュオはリリーナのことを“奥様”と呼ぶようになった。
最初は照れていたリリーナだったが、今はもうすっかりそう呼ばれるのに慣れてしまった。
「ヒルデとお嬢様はお元気?」
「ええ。十分すぎるくらいに元気ですよ」
「そう・・・。お嬢様は確か、リヒターより一つ下でしたよね?」
「ええ。今年で2歳になりました」
「いつか、お家にお邪魔してもよろしいかしら」
「ええ、奥様なら大歓迎です。妻も子供も喜びますよ」
「ありがとう。その時は、リヒターも連れて行きますね」
リリーナは微笑むと、部屋を出て行った。
 
 
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「あとがき」
第3章、突入です。この章の中には大きく2つの話が入っています。どちらも、自分の中では大きなテーマ、というか、大事なお話です。この章も、楽しんでいただけると嬉しいです。
 
2004.2004.2.6 希砂羅