「王子様と王女様」
 
第2章 5.デュオの結婚
 
 
 数週間後、結婚式の準備のため、デュオは町へ帰ることになった。
それを、ヒイロとリリーナは揃って見送った。
「デュオさん、わたくしたちも結婚式に呼んでいただけますか?」
「ええ!もちろんですよ。ヒルデも喜びます」
「ありがとう。ぜひ参加させていただきます。ね?ヒイロ」
「・・・ああ」
ヒイロは相変わらず無愛想なまま頷いた。
 
 
 夜、ヒイロが寝室に入ると、リリーナがバルコニーに出て夜空を見上げていた。
「星を見ているのか?」
ヒイロは自分もバルコニーに出ると、リリーナを背中から抱きしめた。
「・・・流れ星にお願いをしていたんです」
「どんな願いを?」
リリーナは恥ずかしそうに俯いた。
「早く・・・、あなたとの子どもを授かりますようにと・・・」
そう言って、リリーナは頬を染めた。
ヒイロはリリーナから体を離した。
「ヒイロ?」
リリーナがヒイロに振り向く。
途端に、正面から抱きしめられた。
「ヒイロ・・・」
「リリーナ・・・。愛してる・・・」
リリーナはヒイロに体を委ね、目を閉じた。
「わたくしも・・・愛しています」
その時、リリーナは急に襲った吐き気に口元を手で覆った。
「うっ・・・」
リリーナはそのまま口元を手で押さえてその場にしゃがみ込んだかと思うと、今度は急に走り出し、部屋を飛び出して行った。
「リリーナ!?」
追いかけると、リリーナは洗面所へ屈み込んでいた。
「大丈夫か?」
ヒイロが背中をさする。
リリーナは肩で息をしながら、しゃがみ込んでしまった。
ヒイロもしゃがみ、リリーナの肩に手を置き、顔を覗き込んだ。
「ごめんなさい・・・。急に吐き気が・・・」
その時、2人はハッとして顔を見合わせた。
「まさか・・・」
「妊娠・・・か?」
若い2人だが、それくらいの知識は持っていた。
リリーナは涙を浮かべて微笑んだ。
「流れ星が・・・願いを叶えてくれたのよ」
リリーナはヒイロに抱きついた。
「嬉しい・・・・」
 
 
 デュオが城を去って3週間後、町の小さな教会でデュオとヒルデの結婚式が執り行われた。
 ヒイロとリリーナはあくまでも控えめな服装で、この式に出席した。
儀式を終えたデュオとヒルデが教会を出てくると、下へ降りる階段を参列者が取り囲み、花びらを2人へ振り掛けながら、大きな拍手と共に迎えた。
2人が階段を降り終えた時、ヒルデは大勢の参列者の中にリリーナとヒイロを見つけた。
「リリーナ!」
ヒルデは駆け寄ると、リリーナに抱きついた。
その勢いで、リリーナは危く後ろに倒れそうになり、それを咄嗟にヒイロが背中に手を当てて支えた。
「リリーナ、来てくれたんだね」
ヒルデはようやく体を離した。
リリーナはウィンクを返すと
「当たり前でしょ?たとえ来るなと言われても来るわよ、私。結婚おめでとう、ヒルデ。とても綺麗よ」
リリーナは王女ではなく、普通の16歳の娘に戻っていた。
「ありがとう。来てくれないかもって思ってたんだ。だって、リリーナったら突然、王子様と結婚して王女様になっちゃったんだもん。遠い存在になっちゃった気がして」
「ごめんね。手紙でしか伝えられなくて」
「ううん。まあ、手紙を読んだ時はびっくりしちゃったけどね。ええっと、遅くなっちゃったけど、リリーナ、結婚おめでとう!」
「ありがとう、ヒルデ」
2人が笑顔を交し合った時、ヒルデの両親がやって来た。
「あらまあ!リリーナちゃんじゃないの!来てくれたんだねえ、ありがとうねぇ、娘のためにわざわざ。それから、リリーナちゃんも結婚したんだってねぇ、おめでとう。ヒルデからお相手はお城の王子様だって聞いた時はびっくりしちゃったよ」
母親はそこまで一気にしゃべると、ようやく一息ついた。
「すみません、お世話になったのに、何のお知らせもせずに・・・」
リリーナは頭を下げた。
「なあに、そんな頭を下げることはないよ。ただ心残りなのは、リリーナちゃんの花嫁姿を見れなかったことだね」
「うん、私も見たかったなぁ」
ヒルデが横から口を挟む。
「それよりお母さん、一人でべらべらしゃべり過ぎだよ。せっかく私とリリーナがしゃべってたのにさ」
ヒルデが口を尖らす。
「はいはい、ごめんなさいね。リリーナちゃんの顔を久しぶりに見れて嬉しくてさ」
「おばさま。私もおばさまに会えてとても嬉しいです」
リリーナは微笑んだ。
「ねね、リリーナ。お城での生活にはもう慣れた?」
「まだ完全には慣れてはいないけど、とても幸せよ」
「そっか。幸せだよね。好きな人と結婚できるって。これはやっぱり女の子の永遠の憧れだよね」
「うん」
「子どもが生まれたらさぁ、その幸せがきっとぐんぐん増えてくんだろうなぁ」
ヒルデは夢見るように胸の前で両手を組み、空を見つめた。
「うん」
リリーナは同意しながら頬を染めた。
「ん?なあに?その反応は。まさか・・・。リリーナ、もしかして・・・」
「うん・・・。ここにね、新しい命が宿っているの・・・」
リリーナはそっと自分のおなかに手を触れた。
「おめでとう!」
ヒルデはリリーナを抱きしめた。
「お母さんになるんだね、リリーナ」
「うん」
リリーナもヒルデを抱きしめ返し、笑顔で頷いた。
「さっきから何を2人で騒いでいるんだい?」
ヒイロと話をしていたデュオがこちらへやって来た。
「デュオ。リリーナね、もうすぐお母さんになるんだよ!」
ヒルデはまるで自分のことのように弾んだ声を上げた。
「本当ですか!?」
デュオは驚いた声を上げ、ヒイロへ振り向いた。
「おめでとうございます、王子」
ヒイロは照れたようにそっぽを向いた。
ヒルデはリリーナの手を取り
「私たち、もっともっと幸せになろうね!」
「ええ、きっと。ううん、必ず幸せになろうね。約束、ね」
「うん」
2人の笑顔は何よりも眩しかった。
 
第二章終わり
 
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「あとがき」
ああー、終わった。打ち終わってみると、案外時間を書けずに打ち終えられたな、と思います。ヒイロもリリーナもデュオもヒルデも、みーんな、幸せを手にいれて、気持ちも晴れやかでございます。綺麗に終われて感無量でございます。一応、第三章もあるので、またお会いいたしましょう。
 
2004.2.5 希砂羅