「王子様と王女様」
 
第2章 3.王女の気質
 
 
 2人が結婚して1ヶ月が過ぎた。
ヒイロは、いずれはこの国を担う者として、さまざまな知識を身につけなければならなかった。
そのため、ヒイロとリリーナが一緒に過ごす時間が減った。
ヒイロがさまざまな勉強をしている間、リリーナはリリーナで、音楽を鑑賞したり、母親の部屋で裁縫をしたりと、それなりにその時間を楽しんでいた。
 
ある時、リリーナが母親の部屋で裁縫をしていると、ノックの音がした。
リリーナがドアを開けると、目の前にデュオが立っていた。
「やはり、ここにいらしたんですね」
「どうされたんですか?」
「少し、リリーナ様とお話を・・・と思いまして。お時間、よろしいでしょうか」
デュオは控えめに聞いた。
「お話、ですか?」
「あなた様とは、その、あまりゆっくりとお話をしたことがなかったものですから・・・」
「そう言われてみれば、そうですね。では、わたくしのお部屋へ参りましょうか」
「よろしいのですか?」
「ええ。構いませんわ。それじゃ、お母さん、また後で来るわね」
リリーナは母親にそう言い残し、デュオを連れて部屋を出ると、自分の部屋へ招いた。
「自由にお掛けになって」
「失礼します」
デュオはテーブルを挟んだ椅子へ腰を下ろした。
「何かお飲みになります?と言っても、ここには紅茶しかございませんけど」
「いえ、お構いなく」
「遠慮なさらないで。お話をするとお口が渇きますでしょう?」
リリーナはテーブルの上に紅茶のポットとカップを置き、デュオの前に置いたカップに紅茶を注いだ。
そして、自分のカップにも紅茶を注ぐと、ようやく自分も腰を下ろした。
「どうぞ、召し上がってください」
「ありがとうございます」
デュオが紅茶に口を付ける。
「デュオさん、わたくしもね、あなたにお聞きしたいことがございますのよ」
リリーナは微笑んだ。
「何でしょう」
デュオがカップを置き、顔を上げる。
「いいえ、あなたが先にお話になって。わたくしとお話をしたいと尋ねていらしたのはあなたですもの、デュオさん」
「そうですね。では、と言っても、かしこまる程対したお話でもないのですが」
「どうぞ」
リリーナが促す。
「リリーナ様、あなた様は、王女としての気質を持っていらっしゃる、最近のあなたを見ていて、とてもそう強く感じます」
「王女としての気質、ですか?」
リリーナはカップを持ったまま、首を傾げた。
「何と言えばいいのか・・・、失礼な意味に聞こえなければ良いのですが、その、あなた様は、とても強い人間です」
「わたくしが、ですか?」
リリーナはまたも首を傾げる。
「あなた様の、王子へ向ける優しさ、そして、何事にも臆しない強い意志と真実を受け止める強さ、あなた様はそれを持っていらっしゃる」
「ありがとうございます。あなたに、そんなに褒めていただけるとは思っていませんでした。わたくし、今だから正直に申しますけど、ずっと、あなたに嫌われていると思っていました」
「そう・・・、見えてしまいましたか?」
「ええ。だって、今まであなたが王子様へしてきたお仕事を、突然来たわたくしが取ってしまったのですもの」
「それを、気にしていらっしゃったのですか?」
「はい・・・」
リリーナは素直に頷いた。
「まさか、あなた様がそんなことを気にしているとは思いもしませんでした。・・・確かに、わたくしは王子がまだ幼い頃からずっと教育係りとしてお世話をして参りました。そういう意味では、わたくしは王子にとって一番近い存在になるでしょう。王子があなた様と結婚をして、王子とわたくしが一緒に過ごす時間は減りました。しかし、だからと言って、わたくしはあなた様を嫌うわけがないでしょう。わたくしは、王子が早く花嫁を迎えて幸せになることを望んでいましたから」
「そうですか・・・。それを聞いて安心しました」
「ええ。ところで、リリーナ様がわたくしにお聞きしたいこととは何でしょうか」
「ええ。・・・ヒルデのことです。彼女とは、どうなっていらっしゃるんですか?」
「会っていますよ、ちゃんと」
ヒルデの名前が出た途端、デュオの表情が優しくなった。
「そうですか。お2人のなれそめをお聞きしても、よろしいですか?」
「なれそめ・・・ですか。・・・彼女とは、あなた様とあの幼馴染の彼と同じように、家が隣同士だったんです。もっとも、わたくしと彼女では10歳も歳が違うから、兄妹という表現がぴったりでしたけど」
「とても、素朴な疑問なのですけど・・・」
「何でしょう」
「お2人が、その、恋人同士になったのは、いつの時ですか?」
「わたくしが16歳の時に両親が事故で亡くなって、働き口を探していた時、城からおふれが出たんです。王子の教育係りをしてくれる者を探していると・・・。わたくしはいちかばちかで城へ行きました。結果は見事に合格。これには、自分でも驚きました。そして、王子の教育係りを勤めて5年、わたくしはようやくお暇をいただいて、町へ戻りました。もちろん、ヒルデにも会いに行きました。その時、彼女は11歳で、ヒルデは綺麗な少女へ成長していました。これには、正直驚いてしまいました。この時になって、わたくしは彼女のことを妹以上に、とても大切な存在に感じていた自分に気付きました。わたくしは振られる覚悟で彼女の自分の気持ちを伝えました。そしたら、彼女は頬を染めて、自分もわたくしと同じ気持ちだったと言ってくれたんです」
デュオは照れたようの頬を赤く染めていた。
「素敵・・・」
リリーナは微笑んだ。
「ご結婚は、考えていらっしゃるんですか?」
「・・・ええ。まだ、彼女にはプロポーズをしていないのですが、今度会った時にするつもりです。王子が結婚した今、教育係りとしてのわたくしの勤めは終わったも同然です。あなた様が、わたくしの代わりに、いえ、それ以上の存在として、王子を支えてくださる」
「デュオさん・・・」
「王様とお妃様にも、いずれはこのことをお話するつもりです」
「そうですか・・・。あなたがお城を出て行ってしまったら、王子は悲しむでしょうね」
「そうでしょうか」
「だって、あなたは10年もの長い間、王子様と一緒の時間を過ごして来たのですもの。王子様にとって、あなたはとても、特別な存在なのだと思います。王子様は、態度にこそ出されないけど、きっと心の奥ではそう感じているはずです」
「だと、よいのですが」
デュオは少し俯いた。
「あなたも、お淋しいでしょうね・・・」
「ええ・・・」
「わたくしも、淋しいですわ。ようやく、あなたという人間を理解できたと思いましたのに」
「リリーナ様。わたくしも同感です」
2人は微笑みを交わした。
 
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「あとがき」
デュオのおノロケ話・・・。デュオ×ヒルデの話は以前、友達に書いてと頼まれて書いたことがありましたが、やっぱり、しっくりこない、というか、書きにくいです。ヒイロ×リリーナはたくさん書いてもなかなかネタに困ったり、書きたくないと思うことは少ない(・・・全然ないとは言えない)ですが、この2人に関しては、書き易そうで、実は難しいですね。何か、私の中では「友達」の域を出ないんですよね。そういう意味では、何か難しいですね。
 
2004.2.3 希砂羅