LOVE AND PEACE
−NOT ALL OF PEOPLE ARE HAPPY−
(6)




 爆発事件から数ヵ月後。
新しい新居でヒイロとの甘い生活を送りながらも、リリーナは仕事を続けていた。
会議にも積極的に出席し、休むことなく仕事をこなしていた。
しかし、数日後、リリーナは体に異変を感じた。
この頃、貧血で倒れることが多くなった。
さすがにこれはおかしと思い、医務室の女医に相談したところ
「ドーリアン外務次官」
「はい・・・。あの、何かの病気でしょうか」
「“妊娠”・・・ではないかと」
「え・・・?」
「生理は順調に来ています?」
「え?あ・・・いえ、2ヶ月くらい遅れています」
「変だとは思わなかった?」
「・・・この仕事についてから、遅れることは度々あったので・・・」
「そう・・・。気持ち悪くなって吐いたことは・・・?」
「・・・何度かあります」
「それは、つわりね。ここではきちんと検査できる設備が整っていないから、病院へ行ってきちんと調べてもらった方がいいわね」
「・・・・・・」
「ドーリアン外務次官・・・?」
「あの・・・」
リリーナは不安そうな顔で女医を見つめた。
「一緒に、行っていただけませんか?一人では不安で・・・」
「わかりました、一緒に行きましょう。相手の男性の話を聞きながら、ね」
そう言って、女医はウィンクした。
「はい・・・。お願いします」
リリーナをリラックスさせようという女医の気配りに、リリーナは不安が少しずつ薄れていくのを感じていた。



「おかえりなさい」
リリーナはヒイロを笑顔で出迎えた。
「ああ・・・。どうした?今日はやけに機嫌がいいな」
「ふふっ。今日、ちょっといいことがって・・・。あとでゆっくり話すわ。先に食事にしましょう。さあ、早く上がって」
「ああ・・・。リリーナ」
キッチンへ行こうとしたリリーナをヒイロは呼び止めた。
「何?」
「俺も、後で話がある」
「そう。わかったわ」
リリーナは頷くと、軽い足取りでキッチンへ消えた。
そんなリリーナの後姿を、ヒイロは複雑な表情で見つめていた。

食事の後。
リリーナは食後の紅茶を一口飲むと、話を切り出した。
「ヒイロ・・・。今日ね、病院へ行って来たの」
「病院?」
ヒイロが眉根を寄せる。
「どこか悪いのか?」
「ここに・・・あなたとの赤ちゃんがいるの」
リリーナは隣に座るヒイロの手を取ると、自分のお腹に置いた。
「・・・子供が?」
ヒイロは驚いてリリーナを見つめた。
「そうよ。今、3ヶ月ですって」
「そうか・・・」
ヒイロは考え込むように顔を俯かせた。
そんなヒイロに、リリーナは不安になった。
「・・・喜んではくれないの?」
「いや、そういうわけじゃない。ただ・・・」
「ただ、何?」
「・・・来月から2年間、火星へ行くことになった」
「え・・・?」
リリーナは突然のことに、危うくカップを落としそうになった。
「火星に・・・?2年間も?どうして?」
リリーナはショックを隠せなかった。
「今日、大統領から俺たちプリベンターへ直々に命令が下った。“火星の調査”をしてきてほしいと」
「調査・・・?まさか、“マーズ・プロジェクト”?」
「その、まさかだろうな。お前が以前、計画したやつだ」
「でも、その計画は実行段階まで行ったのに、結局途中で取りやめになったのよ。それなのに、どうして今更・・・?」
「大統領が何を考えているのか、俺たちにもわからない。だが、よっぽど“第2の地球”を作りたいらしいな」
「・・・2年も離れるなんて・・・」
「俺1人が抜けるわけにはいかない」
「わかってるわ。でも・・・、この子が生まれる時に、あなたは側にいないのね・・・」
「すまない・・・」
「ごめんなさい。あなたが悪いわけじゃないのに・・・。ただ、急だったから驚いただけよ。たった2年よ、そう、たった・・・。永遠に離れるわけじゃないもの」
「リリーナ・・・」
ヒイロはリリーナの肩を優しく抱いた。
「・・・わたくしね、ヒイロ、今日、あなたが帰って来るまで、この子の名前を考えていたのよ。女の子だったら、カリーナ。男の子だったら」
「・・・アディン」
「え?」
リリーナは驚いた顔でヒイロを見つめた。
「アディンて名前は、変か?」
「違うの。驚いてしまって・・・。わたくしも、アディンがいいって考えていたから」
「お前も?」
「ええ・・・」
そう笑顔で頷くリリーナを見つめながら、ヒイロはいたたまれない気持ちになった。
(離れたくない・・・。側にいてやりたい。また誰かに命を狙われたら、誰がこいつを守ってやれる?だが・・・)
「リリーナ・・・。俺も、本当はお前と2年も離れたくない」
「ヒイロ・・・。ええ、わかっているわ。でも、わたくしのことは気にしないで。わたくし、そんなに弱くないつもりよ。大丈夫、あなたはいつだって、わたくしの心の中にいるもの。それに、この子もいるわ。1人ではないもの」
リリーナはそっと、お腹に手を置いた。
「今日はもう休みましょうか。いろいろあって疲れてしまったわ」
「ああ。そうだな。そうした方がいい」
ヒイロの中からいつの間にか不安が消えていた。


1ヵ月後、空港。
「いってらっしゃい、ヒイロ」
「ああ、行って来る」
そう言って背を向けたヒイロを、リリーナは呼び止めた。
「ヒイロ!」
ヒイロが振り返る。
「どうした?」
「あ、ごめんなさい・・・。何でも・・・ないの。体には気をつけてね」
「お前も、無理はするな。大事な身体だ」
「ええ、ヒイロ」
リリーナが頷いた時
「おーい!ヒイロ、もう時間だぞ!」
デュオの声が聞こえた。
「行って来る」
「いってらっしゃい、ヒイロ。・・・愛してるわ」
ヒイロの手が、リリーナの頬を優しく撫でる。
「愛してる、リリーナ・・・」
2人の唇が軽く触れ合う。
ヒイロか微かに微笑むと、シャトルに向かって歩いて行った。
ヒイロの姿が小さくなり、やがて見えなくなると、ぽつっと、リリーナの瞳から涙が零れた。
「え・・・?」
リリーナは自分で驚いた。
覚悟は出来ていたはずなのに。
それなのに、涙は止まらなかった。

シャトルの中。
「ヒイロ、お前、本当は行きたくないんだろ?2年だもんな」
「デュオ・・・。2年は長いと思うか?」
「わかんねぇな、過ぎてみないと・・・」
「そうだな・・・」
ヒイロは視線を外へ向けて呟いた。
「心配か?リリーナさんのこと」
「ああ・・・」
「2年なんて、きっとすぐに過ぎるさ。・・・仕事が順調に進めば、だけどな」
最後の言葉は、すでにヒイロの耳には届いていなかった。
「・・・・・・」
(リリーナ・・・)


2年後。
空港へ降りると、リリーナが微笑んで立っていた。
「おかえりなさい、ヒイロ」
「リリーナ・・・」
変わらぬ笑顔に安堵する。
1歩1歩、2人の距離が縮む。
触れ合える距離まで近づくと、2人は互いの身体を抱き寄せた。
きつく抱きしめあう。
「おかえりなさい、ヒイロ」
リリーナの瞳から涙が零れる。
「もう、こんな想いは嫌よ。2年がこんなに長いなんて、思わなかった」
「ああ・・・。俺もだ。もう離れない。約束する」
2人は人目もはばからず、互いをきつく抱きしめた。
2人が抱き合っていると、リリーナの背後から
「ママー」
という幼い声が聞こえた。
反射的にリリーナがヒイロから身体を少し離し、背後を振り返る。
ヒイロもリリーナから身体を離し、声の方を見た。
リリーナの側に、幼い女の子と男の子が手を繋ぎ、おぼつかない足取りで歩いて来た。
リリーナは微笑み、2人の髪を優しく撫でると、2人は屈託のない笑顔を浮かべた。
リリーナは立ち上がり、ヒイロに振り返る。
「“カリーナとアディン”よ、ヒイロ」
「カリーナとアディンって・・・まさか・・・」
ヒイロは、仲良く手を繋ぎ、不思議そうな顔で自分を見つめる幼い2人を見つめた。
「そう、あなたの子供よ、ヒイロ。双子だったの」
「双子・・・」
「さあ、2人とも、この人があなたのパパよ」
『パ・・・パ・・・?』
2人の声がダブる。
「そうよ、写真とそっくりでしょ?」
『うん・・・』
「・・・リリーナ。俺は、立派な父親になれるだろうか」
2人に見つめられ、少し不安になったヒイロがリリーナを見る。
「どうして?なれるわ、あなたなら。あなたは優しいもの。この子達も、あなたが大好きになるわ。わたくしがあなたを愛しているように・・・」
「リリーナ・・・」
「今度の日曜日はみんなでピクニックに行きましょうね。あなたが帰ってきたら、みんなでピクニックへ行こうって、約束したのよ」
「ピクニック?」
「そう、お弁当を持って。“家族”揃ってね。お母様も誘いましょう」
「ああ・・・。・・・リリーナ、俺は・・・、これからも、お前が俺を愛してくれたように、お前を愛し続ける。お前が与えてくれた“家族”を守る。それが、今の俺の生きている証だ」
「ヒイロ・・・。あなたを愛しているわ。あなたはわたくしに強さをくれた。あなたを信じ、自分を信じ、世界を信じ、あなたの愛を信じる。それがわたくしの強さの源。あなたがいるから、わたくしは強くいられる。わたくしはわたくしでいられるの」
「リリーナ・・・」
「さあ、帰りましょう。わたくしたちの家へ・・・」



THE END

「あとがき」
終わったよ・・・。ようやく書き終えました。うん、完結。おめでとう、私。青春の匂いがするわ。若いなぁ〜ていう感じです。何か、いろんなものを詰め込めた、って感じですね。でも、この話があるから、今の私があるのかな、とか、考えますね。原点かもしれない。楽しんでいただければ幸いであります。

2004.8.6. 希砂羅