「愛のカレー」 



あ・・・。

彼女が小さく呟く。

何事かと隣の彼女を見ると、右手に包丁、左手にジャガイモを持った状態で固まっている。

「どうした・・・?」

彼女の視線の先を見ると、ジャガイモを持った左手の親指から血が少し滲んでいた。

「切ったのか・・・」

「はい・・・」

しょんぼりと俯く彼女。

「とりあえず、持っているものを置いて、手を洗え。傷口からバイ菌が入るぞ」

「・・・はい」

彼女は言われるままに包丁とジャガイモをまな板の上に置き、水で手を洗った。

その間に、部屋から救急箱を持ってくる。

「左手を貸せ」

差し出される左手を取り、その親指に消毒をし、絆創膏を張る。

「傷は浅いようだ。2〜3日すれば塞がるだろう」

「そうですね」

まだ、しょげている様子の彼女に、やれやれとため息をつく。

「包丁で手を切るなど、よくあることだ。気にするな」

「・・・ショックですわ」

「何が」

「・・・やっぱり、わたくしのことを何も出来ないお嬢様だとあきれたでしょう?」

「思っていない」

「本当に?」

「ああ」

「・・・でも」

「わかった」

「え?」

彼女が顔を上げる。

「お前は休んでろ。俺が作る」

「えっ、それは・・・」

「どうする?二つに一つだ。気持ちを切り替えて続きをするか、

それとも、後は俺に任せるか」

「・・・作ります」

「誰が?」

「わたくしが」

「一人で?」

「・・・いいえ、あなたと二人で」

「・・・・了解した」

「だって、今日、作るのは、“愛のカレー”ですもの、ね」

「・・・・・・」

 

・・・・・・聞いてないぞ、そんなことは。

 

 

Fin

 

 

「あとがき」

久しぶりに、何かシリーズものでも書きたいなぁなんて思っている希砂羅す。
題して、「あいうえお作文」。題名を並べて、一文字目を順番に読んでいくと
「あいうえお」になる・・・そんなものを企んでおります。
で、その一作目がこれです。はあ、何だろう。
「愛のカレー」って何だろうね。

どうぞ、想像してみてください。では、次回。次は「い」ね!

2004.10.20希砂羅