「それを恋と気づくまでの時間」

 

 

目の前に広がる風景。

その一部に、彼女がいる。

それだけで、なぜ、こうも鼓動は高鳴るのか。

視界が彼女を捕らえた途端、周りの景色は淡く揺れ、彼女の姿だけを浮き上がらせる。

不思議なそれを、不思議な気持ちで見つめていた。

 

彼女はまだ、俺には気づかない。

否、気づかれてはいけない。

なぜ、そう思うのか、自分でもわからない。

だが、ただ、今は会えない。

彼女と対等になるには、まだ、足りない。

それが何かは、わからないけれど。

 

 

差し出される手を、見た。

どうしていいのかわからなかった。

だから、その手を凝視していた。

 

目の前にいるのは、ドレスを着た彼女。

白い肌を晒して、その手を差し出したまま、俺を真っ直ぐに見つめる。

彼女は少し小首を傾げ、俺に微笑んだ。

「踊りましょう」

彼女は言った。

差し出されるすべての手を断った彼女が。

「あなたと・・・踊りたいのです」

彼女はめげなかった。

真っ直ぐに見つめる。

その手を差し出したまま。

彼女が一度、瞬きをする。

その様さえ、綺麗だと。

思う自分がいるのに。

その手を素直に受け取れない自分がいる。

「・・・会いたかったわ」

小さくつぶやかれるその言葉に、俺の中に渦巻くもやもやが綺麗に消えた。

だから、その手を取った。

「・・・俺も、会いたかった」

彼女はその瞳を潤ませ、綺麗に微笑んだ。

 

 

Fin

 

「あとがき」
今回は「さ行」のラスト、「そ」です。
「それ」というのを使いたかった、ただそれだけです。ので、内容は空っぽ(あかんがな)。
全く空っぽではないけど、何となく空っぽだね。でも、自分では満足です。
 さて、次回は「た行」へ突入ですね。

頑張りまーす。
2004.11.17希砂羅