「背くらべ」
彼と並ぶと、視線が合わない。
わたくしの頭一個分、彼は背が高いから。
出会った頃は、同じくらいだった背丈も、今では彼の方が高くて・・・。
見上げなければ対等になれない自分を歯痒く思い、
また、男の子の成長の早さを、恨めしく思ったりもする。
「ヒイロ。あなた、また背が伸びましたか?」
彼を見上げ、顔をしかめる。
1ヶ月前は、そんなには気にはならなかった二人の背丈。
「・・・ああ」
彼は低い声で答え、それがどうした?という顔でわたくしを見下ろす。
「お前が縮んだわけではないのなら、伸びたのかもしれない」
そんなことをしれっと言う。
「男の子の成長って早いのですね」
「普通だろう?」
「普通・・・ですか」
「不満か?」
「・・・少し。ヒールでも履かない限り、あなたと視線を合わせられないから」
「では、俺が屈んでやろうか?」
彼の答えに呆れる。
「結構です」
そっぽを向き、ため息をつく。
「リリーナ」
腕を掴まれ振り返る。
あっ・・・という間に、彼はわたくしの唇を塞いだ。
彼は屈み、まるでわたくしに覆い被さるようにして、優しいキスをした。
こんなキスをされたら・・・許すしかない。
そんな自分を甘いかもと思いながら、
心が彼で満たされていく自分を幸せに感じているのもまた、事実。
駆け引きはやはり、彼の方が一枚も二枚も上手だと思い知らされた、そんなある日・・・。
FIn
「あとがき」
今回は「さ行」の「せ」です。
良かった。二人の背丈を比較するような内容の小説は今まで書いたことがなかったので、ちょっと新鮮な気分です。
他の方が書かれたのは読んだことがあるんですが、やっぱり、他の方が試みたものを自分も・・・
と簡単には思えず、どうも意識して避けてしまうんですよね。
こういう内容はあの人が書いているから自分はやめておこう、とか。
ですので、今回はその壁を一歩乗り越えてみました。短い話ですが、何か語ってしまったわ・・・。
さて、次回は「さ行」のラスト、「そ」です。そ・・・。そ?いやはや、難しいな・・・。