「スイートピー〜助言〜」





彼女の、背筋をピンと伸ばし、顎を引き、真っ直ぐに前方を見据える姿は、凛としていて、見るもの全てを魅了する。
一見、声を掛けるのをためらわれるほどに、こういう時の彼女はどこか別の世界の人間に見える。
まるで、その領域に踏み込まれることを拒んでいるような、そんな空気をまとう。
彼女に自覚はないのだろうが。
けれど、意を決して名前を呼ぶと、振り向いた彼女はその顔に花のような優しい笑みを浮かべ、何ですか?と優しい声で問い返す。
その微笑みを見て、彼女がこちらの世界へ戻ってきてくれたことに安堵するように、何故か、心がほっとする。
「何を、考えていた?」
問いながら、彼女の前に淹れたばかりの紅茶のカップを差し出す。
「ありがとう」
と、小さく礼を言い、カップを受け取りながら、秘密です、と彼女は口元に笑みを浮かべながら答えた。
「秘密か・・・。では、それ以上は追究出来ないな」
「くすっ。ごめんなさい、そんなに大層なことではないの。ただ、明日もこうして、あなたの隣にいられれば良いと、そんなことを思っていたの」
「休暇は今日までだったな」
「ええ・・・。明日になれば、また、離れ離れです」
「出来る限り、会いに行く」
「いいえ、いいの。あなたも、わたくし同様、忙しい身なのは十分、承知です。そんなあなたに、わたくしのわがままを押し付けるのは、あまりにも理不尽だわ」
俯く彼女の横顔を見つめる。
「お前は、今、いくつだ?」
「え?17、ですけど?」
それが何か?と、顔を上げた彼女は小首を傾げる。
「俺もお前も、まだ、17だ。俺が言えた義理ではないが、まだ、お前は17だ。まだ、子供だ。無理に大人になろうとしなくてもいい。少なくとも、俺の前では普通の17の少女でいろ」
「ヒイロ・・・」
彼女は驚いたように目を大きく開き、俺を見つめる。
「こんなことを言うのは、俺らしくないな」
代わりに、俺が顔を逸らす。
「あなたが、そんなことを言うとは驚きました。けれど、嬉しいわ。あなたの前では、普通の17歳の少女として過ごしたいと、そう思っていたのに、大人の仮面を被ることにいつの間にか慣れてしまっていたんだわ、わたくし。それに、気づかなかった」
「リリーナ・・・」
「ヒイロ。あなたがいれくれて良かった。あなたが、気付かせてくれた。ありがとう、ヒイロ」
「俺は、無理をしているお前を見ていたくなかっただけだ」
「ヒイロ」
優しく呼ばれ、顔を上げると、赤い顔をした彼女がいた。
「・・・大好き」
照れたようにポソッと小さく言われ、俺は何も言い返せない。
そんな俺を見つめ、彼女は優しく笑みを浮かべるのだった。


Fin

「あとがき」
はい、花言葉シリーズ第3弾です。今回は、「スイートピー」。最初は、「すいせん(高潔)」で書き始めたのですが、内容が題名とつりあわなくなってきてしまい、困ってしまったので、他に花はないかと本で探したら、「スイートピー(助言者)」を見つけました。ので、変更して、こちらも花言葉に合う様に話の流れを変えました。いやぁ、難しいよ、このシリーズ。簡単そうで難しい。そんなことを思いました。

2006.5.15 希砂羅