花言葉シリーズ

「アセビ〜二人で旅をしよう〜」

“それ”は突然始まった。

「え?」
「荷物をまとめろ」
「突然、いらっしゃったかと思えば・・・。どういうことです?」
ここは、リリーナの自宅である、ドーリアン邸。
その、リリーナの部屋。
「早くしろ。追っ手が来る」
「追っ手?それはあなたの?それとも、わたくしの?」
「・・・両方だ」
「両方って・・・。わたくしに心当たりはありません」
「今は無くてもこれから出来る。というか、俺が作るんだがな」
「意味が分からないわ」
彼女は眉を寄せ、首を横に振った。
「早くしろ。2、3日分あればいい」
「でも・・・」
「早くしてくれ。本当に時間が無い。事情は道中、説明する」
「・・・分かりました」
渋々・・・といった感じで、彼女は旅行カバンに荷物を詰める。
「2、3日分でよろしいのですよね?」
「ああ」
「出来ましたわ」
数分後、彼女が鞄を片手に立ち上がる。
「行くぞ」
荷物を預かり、反対の手で彼女の手を引き、部屋を出る。
パーガンに見つからないようにそっと屋敷を抜け出し、彼女を車に乗せる。

しばらく走ったが、彼女は無言だった。
無論、怒っていることは承知だった。
「・・・いつ、説明してくださるの?」
ようやく、しびれを切らしたように彼女が口を開く。
「そろそろいいか・・・」
周りを見渡し、見慣れた街を離れた所で車を止める。
「近々、ある組織がお前を狙って動くという情報が入った。無論、極秘だが。それを事前に防ぐために、計画を練った」
「追っ手というのは、そのある組織ですか?」
「ああ。それと・・・デュオたちだ」
「デュオさんたち?何故、彼らからも逃げなければならないの?彼らも味方のはずでは?」
「奴らは、ホテルにお前を缶詰にすることを考えた。それに、俺一人が反対した。例え、仮の名でホテルを借りて、お前を缶詰にしたところで、いずれは足が着く。だから、これは俺一人が計画した」
「それで、わたくしを、何処に連れて行くのです?」
「ここからかなり離れた無人島」
「え?」
「そこに小さな屋敷がある。そこに、居てもらう。お前がそこにいる間に、俺は組織を討つ」
「あなた一人で?」
「ああ。一人の方が動きやすい」
「でも・・・。危険なことに変わりはありません」
「俺を誰だと思っている?」
「あなたが一人でも強いことは十分に心得ているつもりです。でも、万が一のことが・・・。それに、あなたは何も分かっていないわ。守られる立場であるわたくしが、どんな想いであなたの帰りを待っているのか・・・。その不安と寂しさと悲しみが、あなたに分かりますか?」
「リリーナ・・・」
「あなたにもし、万が一のことがあったら、わたくしはどうすれば良いの?」
「俺は必ず無事に帰る。それを、祈っていてくれ」
「・・・・・・」
リリーナは滲んだ涙を手で拭うと、上着のポケットからあるものを取り出す。
「でしたら、これを。いつか、あなたに渡そうと思ってずっと持っていたのですが、渡す機会が無くて。お守りです。わたくしの想いを込めたお守り。あなたが、無事にわたくしの元へ帰ってきてくれるように・・・」
「・・・すまない」
「くすっ」
軽く頭を垂れてお守りを受け取ると、リリーナは小さく笑みを零した。
「何が可笑しい?」
「いえ・・・。こういうものを受け取る時は、普通でしたら“ありがとう”と言うのに、あなたの場合はいつも、お礼を言う時は“すまない”の一言。でも、あなたらしいわね」
「それは褒めているのか?」
「ええ、そうよ」
リリーナはにっこりと笑うと、腕を引っ張り、そのまま俺の身体を自分に引き寄せ、その頭を抱き寄せた。
まるで、子供を抱きしめるように。
俺はされるがまま、そっと目を閉じた。
「約束をしてください。必ず、無事で帰って来ると。そして、無事に帰ってきたら、今度はあなたが、わたくしを抱きしめてください」
「ああ・・・。約束する」
ヒイロはリリーナの背中に腕を回し、その細い身体を抱きしめ返す。
「無事に帰ったら・・・」
「帰ったら・・・?」
「二人で旅をしよう」
「・・・はい」
リリーナは瞳に涙を滲ませ、小さく頷いた。


3日後。
組織は、ある一人の青年の手により壊滅した。
もちろん、その青年の後ろには、仲間の協力もある。

それからしばらくして、とある無人島で二人の若い男女が幸せそうに旅行する姿を見た人がいるとかいないとか・・・。


Fin

「あとがき」
はい、花言葉シリーズ、第2弾です。アセビ、という花?(植物?)は、ご存知ですか?山地に自生していて、よく植木として植えられているそう。色は白。花言葉である「二人で旅をしよう」の説明として、つきあいの浅い恋人に、恋のステップアップ手段として二人だけの旅に誘い出す時に贈る、と書いてあります。この花言葉が気に入ってしまって、今回、書くことに決めました。本当は、こんな話になるとは思いませんでしたが、何故か書き進めていくうちにこうなりました。なので、途中で花を変えようかと思ったんです。「祈り」とか「願い」とかいう花言葉の花にしようかな、と思ったんですが、その類の花言葉の花が無くて、最後に無理やりセリフを入れました。うむ、難しいなぁ。
さて、次のお花は何かしら・・・?


2006.5.14 希砂羅