「蒼い瞳に抱かれて」


その瞳の奥に吸い込まれるのではないかと錯覚させる、あなたの蒼い瞳。
大好きで、どきどきさせるけれど、恐怖さえ覚えるのは、あまりにも澄んでいるから。
地球を思い起こさせる、その蒼さ。
海を連想させる、その蒼さ。
その瞳に、捕らわれている。


あなたに手を取られ、歩く海岸で、あなたは黙ったまま。
その沈黙に身を任せる。
何も言わないで。
ただ、手を繋いで。
それが、心地よいのです。
言葉では言い表せない想いが、この胸にあるから。


やがて、彼は足を止め、わたくしを振り返る。
何かを言おうと、その口を開きかけては、閉じる。
それを何度か繰り返した。
何が、起こるのだろう?
沸き起こる不安。
それは、嵐の前触れ・・・?


ある日、カトルはヒイロに呼び出された。
(僕、彼を怒らせるようなこと何かしたかなぁ・・・?最近は無理やり彼とリリーナさんを引き合わせるようなことはしてないよね・・・?)
一体、何を言われるんだろう?と不安にどきどきと胸を鳴らせながら、カトルは待ち合わせ場所であるビルの屋上へ向かった。
屋上へ上がると、ヒイロは柵に手を乗せ、カトルに背を向けた状態で立っていた。
「ヒイロ・・・?」
恐る恐る近づく。
ヒイロがゆっくりと振り返る。
「ああ・・・。悪かった、急に呼び出したりして」
「うん・・・。いいよ。それで、話って何かな?」
「ああ・・・」
ヒイロは重く頷いたきり、黙り込む。
(君は黙り込むと怖いんだよね。まあ、普段も寡黙だけど・・・)
「何か、あったの?」
「お前は・・・・」
「うん」
「どうやって・・・ドロシーと結婚した?」
「え?どうやってって・・・?え・・・ええっ!?」
まさか、な展開にカトルは思わず大きな声を出した。
「まさか、君・・・。リリーナさんと・・・」
「変か」
「いや、変じゃないよ。好きな人と結婚したいと思うのは自然なことだし、そうなるのは、とても素晴らしいことだと思うし。それで、プロポーズは、まだ、なの?」
「だから、困っている。・・・どんな言葉がふさわしいのか、俺にはわからない」
「定番はあるけど、決まりの言葉なんてないよ。自分の気持ちを素直に相手に伝えればいいだ」
“それが出来ないから困っているんだ”
という顔でヒイロはカトルを睨んだ。
それを読み取ってカトルは慌てて、ええっと・・・考える振りをする。
「正直な言葉でいいじゃないかな。結婚してほしい。その一言で十分だよ。あ、その時、忘れちゃいけないのは、指輪だよ。まあ、定番だけど。高いのじゃなくてもいいんだ。よく言うじゃない、給料3ヶ月分って・・・」
「わかった・・・。後は一人で考える。悪かった、急に呼び出したりして」
「いいよ。何かしちゃったかな?ってどきどきはしたけど。話を聞いて嬉しかったよ。やっぱり君も、普通の男の子なんだね」
僕の言葉に、彼は憮然とした顔で僕を見つめた。



「ヒイロ・・・?何か、あったのですか?」
心地よかった沈黙が、今は不安に変わった。
「もし・・・」
彼が、わたくしを見つめ、静かに口を開く。
「もし、許されるのなら、俺の罪が、許されるのなら・・・」
彼が、わたくしの手を強く握る。
「ヒイロ・・・?」
彼は、何を言い出すのだろう?
「俺は、お前を手に入れたい」
思わず、目を大きく開いて彼を見つめた。
「俺に、幸せになる権利が与えられるのなら、お前と共に歩むことを、望みたい」
「ヒイロ・・・」
視界が滲む。
両手を伸ばし、その手で彼を抱きしめた。
「幸せになる権利を持たない者など、いないわ。それを、拒否しない限り・・・」
「リリーナ・・・」
「わたくしが、もし、あなたを幸せにできる権利を持っているというのなら、それは、とても喜ばしいこと・・・。なんて、幸せなこと・・・」
抱きしめていた腕の力を緩め、彼の額に自分の額をコツンと付ける。
そして、微笑む。
彼の蒼い瞳が、真っ直ぐにわたくしを見つめる。
「愛しています、ヒイロ」
「リリーナ・・・」
確かな言葉は無くても、わたくしの名前を呼ぶ、その声の暖かさで、心は満たされる。
彼の腕が、わたくしの体を痛いほどに抱きしめる。
「リリーナ」
耳元に唇を寄せ、彼が囁くように甘く、わたくしの名前を呼ぶ。
「・・・愛している」
込み上げた涙が堪え切れずに溢れ、彼の肩を濡らす。
これ以上の幸せを望んだら、神様に怒られるだろうか?
そんなことを頭の隅で思いながら、彼を強く抱きしめる。
互いの体を温め合うように、黙って抱きしめあう。
それだけで、幸せと。

顔を上げれば、彼がわたくしを見つめていた。
その蒼い瞳で。
地球を思い起こさせる、その蒼さ。
海を連想させる、その蒼さ。
その瞳に、捕らわれた。
その瞬間に、わたくしは幸せを手に入れた。

Fin


「あとがき」
うん、書けた。時間がかかって仕方無かったです。間に入れたヒイロとカトルのエピソード?は、元々は別で書いていまして(“プロポーズ大作戦(仮)”というふざけた題名でした)、例のごとく書き逃げしてあったんですが、何か繋がるかも〜と間に入れてみました。作戦は、まあ、成功かな。今回の話は、題名が先です。題名から話を考えて、ちょこちょこと書き始めて。書き始めてから2週間くらいは経っているかも。甘い話になったかなぁ?

2005.12.28 希砂羅