「酒の肴」


「え?」
と、小首を傾げ、リリーナは不思議なものを見るかのように、“それ”を見つめた。
「不思議な光景だろう?滅多に見れないぜ」
浮かぶ笑いに肩を震わせ、デュオも同じように“それ”を見つめる。
「後は、任せてもいいかな」
「・・・はい」
リリーナは小さく答え、それの隣に腰を下ろす。
「本当に、不思議な光景ね」
くすりと笑みを浮かべる。
「でも、何故・・・?」
リリーナは小さく笑みを浮かべ、デュオに尋ねる。
「本人に直接聞ければいいんだろうけど。絶対、言わないだろうな、こいつ」
「あなたはご存知なのね?デュオさん」
「ああ・・・、まあね」
「もし良かったら、教えてくださいますか?」
「心当たりはあるかい?」
「わたくしに心当たりが・・・?」
「ここ3ヶ月ほど、全然会えてないんだろ?」
「・・・ええ」
リリーナは頷き、ハッと顔を上げる。
「まさか・・・。それが原因?」
「たぶんね」
デュオは肩をすくめる。
「もちろん、そんなことは一言も漏らさなかったけどな。でも、何となくな・・・」
「そうですか・・・」
「驚きだよな。俺も、こんなになるまで飲むこいつを初めて見たからさ。滅多に見れないだろうから、お嬢さんにも見せてやろうと思って、さ」
「わたくしも、こんな彼を見たのは初めてです。だけど、不思議。驚きではあるけれど、それよりも・・・」
「その顔は、嬉しい・・・っていう顔だな」
「そうです」
微笑んで、リリーナは頷く。
「会いたいのに会えない・・・。それを寂しく思っているのは、わたくしだけではなかった」
「それが嬉しいのかい」
「ええ・・・。変でしょうか」
「いや・・・。恋人同士にはよくあることさ。それじゃあ、後はよろしく!」
デュオは片手を上げ、ウィンクすると歩いて行ってしまった。
それを見送ると、リリーナはその隣に腰を下ろし、彼の顔を覗き込んだ。
「ヒイロ・・・?」
そっと声を掛けるが、反応は返ってこない。
完全に眠ってしまっている。
こんな無防備な彼を見るのは初めてのこと。
どきどきと胸は鳴り、と同時に、どうすればいいのか戸惑ってしまった。
起こそうか、それともこのまま寝かせておこうか。
とりあえず、しばらく彼の寝顔を見つめていよう。


目を覚ます。
途端にズキンと頭痛がした。
その理由を、目の前に転がる酒ビンを見て思い出した。
酔い潰れた・・・らしい。
俺としたことが、情けない。
こんなことは初めてのことだ。
参ったな・・・とふっと隣に顔を向け、思考を停止。
そこには、自身の腕に顔を埋めて眠る彼女の姿。
何故、彼女がここで寝ているのだろう?
それだけは、思い出せない。
彼女と一緒に酒を飲んだ記憶は無かった。
確か、一緒にいたのはデュオだったはずだが・・・。
しかし、どう見ても、隣で寝ているのは彼女だった。
「おい・・・?」
彼女の肩を揺する。
「リリーナ」
少し力を入れる。
「んっ・・・」
ようやく彼女は顔を上げ、しばらく目の前の壁をぼんやりと見つめた後、その顔をこちらへ向けた。
俺をぼんやりと見つめていたその瞳が見開かれる。
「ヒイロ・・・?」
「ああ」
「もう、大丈夫なのです?」
「・・・ああ。それより、何でお前がここにいる?」
「えっと・・・」
彼女は言葉に詰まり、遠くを見つめる。
「デュオさん・・・に呼ばれて」
そう言って俯く。
「デュオに?あいつは、帰ったのか?」
「ええ・・・。わたくしに後を任せて、帰られました」
「そうか・・・」
「昨日のこと、憶えてます?」
「あいつにしつこく誘われて酒を飲んだのは憶えている」
「そうですか・・・。久しぶりですね、こうして面と向かってお話をするのは」
「・・・そうだな。どれくらい、会っていなかった?」
「3ヶ月・・・だと思います。お互い、忙しすぎますね。ちゃんと身体を休めていますか?」
「同じ言葉をそっくりそのままお前に返す」
「わたくしは、大丈夫です。なるべく、寝る時間は作るようにしているので。それより、あなたの方が心配だわ。あなたは寝なくても平気と言うかもしれませんが、きちんと寝てくださいね。お酒の力を使わずに・・・」
「これは、不可抗力だ」
チッと舌打ちをする。
すると、彼女はくすっと笑みを零した。
「分かっていますわ。少し、からかってみただけです。あなたが、お酒の力に頼るほど弱い人だと思っていませんから」
「・・・帰るぞ」
彼女の腕を掴んで立ち上がる。
「え?」
「俺も、家に帰って休む。お前もそうしろ」
「はい」
彼女が微笑んで立ち上がる。
「ヒイロ。言い忘れていたことがあります」
「何だ」
「・・・会いたかった」
「リリーナ・・・」
「それだけを、言いたかったのです。あなたが目を覚ましたら、それを伝えようと思って。あなたも、同じでしたか?それとも、会えなくても平気でしたか?」
「・・・いや。俺も、お前に会いたかった。それが、こんな形での再会になるとは予想も出来なかったがな」
「ふふ・・・。そうですね。だけど。どんな形でも、こうして会えました。それだけで、満足ですわ」
「そうだな。では、行くか」
「また、しばしのお別れですね」
彼女が寂しそうに微笑む。
だから、彼女の腕を掴んだ。
「いや、もう少し・・・」
「え?」
驚く彼女の腕を引き、そのまま抱き寄せる。
「もう少し、時間はあるか?」
「・・・はい」
彼女が小さく頷く。
「行くぞ」
「どこへ?」
心なしか、頬を赤く染めた彼女が問い返す。
「俺の家だ」
「・・・はい」
彼女が嬉しそうに微笑むので、俺は理性を抑えるのに必死だったことは言うまでも無い。


Fin

「あとがき」
書けた〜。書き出したのはいつだったでしょうか。忘れてしまうほど前だということは言うまでもありません。題名は、書いている途中に思いついて決めました。そのままだね。ラブソングとはほど遠いロックを聴きながら書いてましたが、それなりに甘くなって良かったな、と思います。最後の終わり方で悩んだ。続きを書こうか、それとも、酒を飲みながらのデュオとヒイロのやりとりを書こうか。結果、思いつかなくてやめてしまったのだけど。
というわけで、次回です。

2006.4.30 希砂羅