「心満ちる時、貴方は側にいる」


彼女は眠っていた。
無防備な寝顔を晒して。
唇から小さな寝息を漏らし。
その寝顔はとても幸せそうで、起こすのをためらった。
だから、しばらくの間、その寝顔を見つめることにした。

“会いに来た”
そう言ったら彼女は驚くだろうか。
俺がそんな単純な理由で自分の元を訪れたことに。
それもそうかもしれない。
自分でさえ、驚いているのだから。
そんな単純な理由で、自分は動けるのかと。
“会いたい”という、ただそれだけの理由で・・・。

彼女の髪を手で撫でる。
起こさないように、そっと髪が顔に触れないように、慎重に。
けれど、極自然に。

どれくらい、そうしていただろう。
微かな声を漏らし、彼女の瞳がゆっくりと開かれる。
ゆっくりと焦点が合ってゆく瞳が、俺を捉える。
その瞳がしっかりと俺の姿を認識した後、彼女は大きく瞳を開いた。
「ヒイ・・・ロ・・・?」
「ああ」
「どうして・・・ここに・・・?」
彼女の質問に、一瞬臆する。
さて、何と答えよう。
ゆっくりと彼女から視線を反らし、窓から外を見つめる。
答えは胸の中にあると、知っていても。
なかなかそれを引き出せない。
「会いたかったっ・・・」
背中に感じる、彼女のぬくもり。
彼女は俺の胸へ腕を回し、俺を背中から抱きしめた。
「とても、会いたかったの・・・ヒイロ・・・」
彼女の言葉を背中越しに聞き、俯く。
また、先を越された。
彼女はいつも、まるで俺の言葉を代弁するかのように、俺が言おうとする言葉を先に言ってしまう。
決して、そのことで彼女を責めるつもりはないのだが。
ただ、胸に広がる、もどかしい思いの波紋。
「リリーナ・・・」
やっとの思いで彼女の名前を呼ぶ。
「はい・・・」
「会いに来たと言ったら・・・笑うか?」
彼女へゆっくりと振り返る。
そこにあったのは、花も綻ぶ、彼女の笑顔。
「いいえ・・・。とても、嬉しいです、ヒイロ」
振り返った俺を、彼女が正面から抱きしめる。
その背中に、ゆっくりと腕を回す。
ふわりと髪から香る甘い香り。
そっと目を閉じた。
ただ、抱きしめあう。
それだけで、心は満たされた。

これを人は、「幸せ」と呼ぶのかもしれない。

Fin

「あとがき」
久しぶりに、「小説書きたい」病が発令中。うん、そう、書きたいのよ。とっても書きたい。というわけで、書きました。久しぶり?にヒイロ視点で書いてみました。このヒイロはとても優しいので、書いている私はとても幸せでした。私の心も満たされたわ〜。
ラブラブ万歳!!

2005.4.11 希砂羅