The Time Of The Sweetheart

Time;05 越えられない真実





「何て・・・おっしゃったの・・・?」
彼女が目を見開き、俺を見つめる。
「事実を言った」
「あなたが・・・本当にあなたが、殺したの?」
「そうだ」
「どうして・・・どうしてあなたがっ!」
「・・・お前のために、俺が勝手にやったことだ」
「理由になっていないわ。そんな、自分の勝手で人を殺せるの?あなたはそんな人じゃない。事情があるのでしょう?」
目の前の少女は、最後まで俺を信じようとしているのか?
2週間前に出会ったばかりの人間を?
彼女は俺の瞳の中に潜む真実を探るように見つめる。
そして、ハッと何かを思いついたように目を見開く。
「まさか・・・、カイヤー次官がわたくしを狙っていた・・・?」
彼女の勘の鋭さに眩暈さえ覚える。
「そうなの・・・?そうなのね?・・・答えなさい、ヒイロ」
これ以上は彼女を騙せない。
俺の負けだ。
俺は掴んでいた彼女の手を離し、体を起こした。
彼女もゆっくりと体を起こし、俺の言葉を待つように俺を見つめている。
「そうだ。カイヤーはお前の命を狙っていた。しかし、自分の手は汚さずにお前を葬るつもりだった」
「自分の代わりの人間にわたくしを殺させる、ということ?」
「・・・聞いたことぐらいあるだろう?人殺しの代行をする裏の仕事があることは」
「詳しくは知らないけれど、そういう仕事を受け持つ組織があることは聞いたことはあるわ」
「・・・俺はそこにいた」
「え?」
「俺は小さい頃に親に捨てられ、その俺を拾ったのが、その組織のドン、いわば親玉だ。物心がついた頃には、俺は銃を扱えるようになっていた」
「なぜ、そんな話をわたくしに?」
「まだ、わからないのか?俺が、カイヤーが雇った人殺しだ」
「あなた・・・が?」
彼女は声を掠れさせ、けれど、射抜くように俺を見つめた。
「わたくしを殺すのですか?」
「・・・殺さない。初めから、殺すつもりはない」
「では、どうしてわたくしに近寄ったのです?」
「それは・・・」
彼女に言われ、答えられずはずもなく、口を濁す。
「なぜ?」
彼女は俺の方へ体を寄せ、なおも問いかける。
完全に彼女のペースにはまってしまった。
「答えて、ヒイロ。答えてくれなければ、わたくしは期待してしまうわ」
「期待?」
「・・・わたくしは・・・」
彼女は頬を淡く染め、俯く。
「わたくしは、あなたを・・・好きだから」
「リリーナ・・・」
彼女の頬へ手を伸ばし、両手で包み、顔を上げさせる。
彼女は恥ずかしそうに瞳を反らす。
その仕草に胸が鳴る。
爆発しそうな胸の鼓動に、自分の限界を知る。
「いいだろう、リリーナ。俺が、なぜ、お前を殺さないか、それを教えてやる」
「ヒイロ・・・?」
彼女が、熱を帯び、潤んだ瞳で俺を見つめる。
「・・・写真を見た時から、お前のことが気になっていた、自分には殺せないと思った。・・・こんな気持ちを抱いたのは、お前が初めてだ」
「それは・・・。あなたもわたくしと同じ想いでいてくださると、思ってもよいのですか?」
「・・・そうでなければ、何なんだ?」
「ヒイロ・・・。嬉しい・・・」
彼女は顔を輝かせる。
しかし、すぐにその顔を曇らせた。
「どうした?」
「・・・けれど、ターゲットを殺し損なったら、あなたは・・・」
「大丈夫だ。そうなる前に手を打った」
「・・・殺したと、いうこと?」
「・・・そうだ。・・・俺が怖いか?」
「怖いわ・・・」
当然か・・・。
所詮、人殺しが人を愛するなんて、夢物語か。
彼女から離れ、立ち上がる。
彼女と結ばれるなど、思ってはいない。
それは不可能だと、覚悟は出来ている。
「どこへ・・・?」
「今日で、2週間の期限は切れる。俺はまた、人殺しに戻る。今更、まともな生き方など出来るわけが無い。お別れだ、リリーナ。俺のことは忘れろ。自分の幸せを願うならな」
「ヒイロッ!」
泣き叫びしがみつく彼女の腕を払い、部屋を出る。
これで良かった。
自分を納得させ、頭の中に残る彼女の残像を振り払う。
これで、良かった・・・。

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「あとがき」
ようやく続きに手をつけてからまた1週間が経ちました。この話は、本当に悩んで悩んで・・・、すんごく苦労しています。話の中のキーワードとしてある「2週間」を、どう話の中で使うかで、悩みます。最終的には3日単位で話を書くことに・・・。何だろう?今回の2人はくっつくのも早かったけど、離れるのも早いですね。私の中ではありがちな感じもしますけどね。私の書いたこれまでのSSを読んでくださっている方にはこの後、この2人がどうなるか、だいたい読めるんではないですかね。まあ、たぶん、予想通りの展開になると思います。
それでは、次回で最後です。最後まで見守ってやってくださいませ。

2005.6.26 希砂羅