The Time Of The Sweetheart

Time;04 仮面が剥がれる時





 彼女の護衛官になってから2週間。
期日は今日まで。
今日で、全てを決める。

彼女を殺すことからは何とか逃れた。
それだけでもよしとするか。
そう自分を納得させる。


その日、彼女の仕事部屋を訪れた俺を、顔を蒼白にした彼女が出迎えた。
知ったのか・・・。
以外に早かったな。
俺の腕も鈍ってきたか。
「どうされました?」
平静を装い、尋ねる。
「新聞を・・・ニュースをご覧になっていないの?」
彼女は顔を蒼白にしたまま、声を震わせた。
「申し訳ありません。何かあったのですか?」
「カイヤー次官が・・・お亡くなりになりました。新聞には・・・殺人では・・・と」
「殺人?」
「何てこと・・・」
彼女はまるで自分の身に降りかかった不幸のように、体を震わせた。
「カイヤー次官とは、以前、何度も仕事を一緒に・・・。そのカイヤー次官がお亡くなりになるなんて・・・」
「・・・あの男は、リリーナをよく思ってはいなかった」
「え?」
手で顔を覆っていた彼女が顔を上げて俺を見る。
「いえ、そう噂で聞いたことがあったもので・・・」
「噂・・・?」
「憎しみにも似た感情を、あなたに抱いているのではないかと」
「確かに、それを感じることはありました・・・」
「・・・お前を慕う誰かが、お前を守るために奴を殺したのかもしれない」
え?と彼女が驚いた顔で俺を見つめる。
「何を言い出すの、いきなり・・・」
彼女の言葉にハッとする。
まずい・・・。
不審に思われたか。
「たとえ、彼がわたくしを疎ましく思っていたとしても、殺人は許されることではありません。確かに、最近のカイヤー次官はわたくしに対して態度が冷たかった。わたくしも、それを感じていました。けれど、きちんと向かい合ってお話をすれば、和解できたかもしれない。たとえ、あなたの言ったことが本当だったとしても、何も、殺すことなんて・・・」
彼女の態度にイライラする。
心が爆発する寸前で抑える。
「・・・どこまで、お前は甘いんだ。お前が思うほど、人の心は簡単じゃない。和解など、たやすく出来るものではない」
「ヒイロ・・・?」
疑うような目で彼女が俺を見る。
「どうしたの?ヒイロ。あなたらしくないわ」
「俺らしい?」
俺の本能が疼き始める。
仮面を被り続けるのも、そろそろ限界か。
まさか、彼女にこの仮面を剥がされるとは思いもしなかった。
こんなにも簡単に・・・。
自分の甘さに嫌気がする。
「俺らしいとは・・・?俺の何を、お前は知っている・・・?」
「それは・・・。あなたは優しい方。今のわたくしにとって、心の支えです」
「俺が・・・?」
「ええ」
「この俺が・・・?」
くっ・・・と笑いが込み上げる。
「お前を、力づくで自分のものにしようとしている、この俺を・・・?」
「ヒイロ・・・?」
彼女の肩をトンッと軽く押す。
「きゃっ」
彼女の体は簡単にソファの上に落ちた。
その上に覆いかぶさる。
そして、耳元で悪魔の囁きを・・・。

「カイヤー次官は俺が殺した」


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「あとがき」
約、1年半ぶりにこの話に手をつけます。いやぁ、書けなくてねぇ、続きが。どうにもこうにもいかなくて、放置しておりました。でも、書くものが無くなってしまい、勇気を振り絞って続きに手をつけました。心優しいヒイロが豹変してしまったよ・・・。次回も頑張れ、私。

2005.6.20 希砂羅