The Time Of The Sweetheart

Time;03 キス
 



彼女の側にいると、どうにかしてしまいたい衝動にかられる
二人きりになってしまった時は特に危険で、ちょっと指先が触れただけで、妙な緊張感が体に走る。
それは彼女も一緒のようで、戸惑ったような顔をしてすぐに顔を逸らされてしまう。
その後は妙な空気に包まれ、どこか気まずい雰囲気になってしまう。
互いを妙に意識し合ってしまうのだ。

だが、いつまでもこんな状態では、関係を進めようにも、手を出すこともできない。
いつかは行動に出なければ。
多少、それが強引になったとしても。


コツっと彼女に近づく。
ハッと彼女が顔を上げる。
「ヒイロ・・・?」
戸惑いを浮かべる彼女の肩に手を置いて、そっと屈んだ。
「っ!」
唇が触れた。
それは一瞬に近かった。
彼女は驚いた顔で俺を見つめ返す。
何が起こったのか、すぐには理解出来ていないようだった。
「あ、あの・・・」
「・・・嫌だったか?」
「え?」
「・・・嫌なら、もうしない」
「・・・わか・・らない・・・わ。ただ、びっくりして。何が起こったのか・・・」
「そうか・・・」
彼女の肩に置いた手をそのままに、再び屈む。
至近距離で見つめ合う。
「振り払わないなら、このままするぞ?」
「・・・はい」
彼女の答えに驚く。
「いいのか?」
「・・・はい」
彼女が小さな声で頷く。
彼女の心が読めない。
とりあえず、嫌がられてはいないらしい。
「・・・目を閉じろ」
彼女がそっと目を閉じる。
伏せた睫が震えている。
その様子を見て、彼女が今までキスをしたことがなかったのだと知った。
けれど、ここで止めてしまうほど、俺は遠慮深くはない。

触れ合う唇。
一度目よりは、長く口付けた。
深いキスは、まだ怖いだろう。
優しく触れて、離す。
ゆっくりと彼女が目を開ける。
その瞳が潤んでいた。

やばい。
そんな瞳で見つめられると、セーブが利かなくなる。
慌てて彼女から離れる。
「あ、あの・・・ヒイロ・・・?」
そんな俺を彼女は戸惑ったように見つめる。
「そんなに俺を誘惑しないでくれ」
「えっ?ゆ、誘惑なんて・・・わたくし・・・」
「自覚が無いのが一番たちが悪い・・・」
かぁ・・・と彼女の顔が赤くなる。

とりあえず、分かったことは、彼女も俺に好意を持っていてくれるということ。
それがわかっただけでも十分か。

彼女の前に一枚のメモを差し出す。
「何ですか?」
「俺のプライベートで使っている携帯の番号とパソコンのメールアドレスだ。個人的に用がある時はこちらに連絡をくれ」
「・・・はい」
まだ頬をほのかに赤く染めた彼女がそれを受け取る。
「1時間後に会議が入っているが、大丈夫か?」
「あ、はい、大丈夫です」
ハッとしたように彼女が顔を上げ、メモを大事そうに畳み、上着のポケットにしまい込む。


さて、この先、どう彼女を困らせようか・・・?

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「あとがき」
初々しい・・・。久しぶりにこんなに初々しい2人を書いたなぁ。私が書く話のほとんどは、「恋人」としてのヒイリリなので。恋人になるかならないかのこの瀬戸際・・・。うぅ、すんごくどきどきする。早くくっついて〜って感じです。

2004.2.4 希砂羅