「かわいいヒト」


正直、男の人の寝顔を見て、“かわいい”と感じてしまうなんて、思わなかった。
男の人の寝顔を見るのを、彼が初めて、というのもあるが・・・。
父親の寝顔さえ、私は知らない。
父親が寝ている姿を、私は知らないから。
いつもお仕事で動き回る父親を見て、この人はいつ眠るのだろうと、不思議に思っていた。
眠らない人など、少ないだろうけど・・・。
人と睡眠は、たぶん、切っても離せないものだから。

彼の寝顔を見つめる。
彼が起きてしまわないように、息を潜めて。
でも、彼は起きないだろう。
自惚れていると分かっていても、思ってしまう。
彼がゆっくりと眠れるのは、私の隣だけだと・・・。
彼も、本当は人恋しくて、寂しい人なのではないか・・・などとも。

指で彼に触れてみた。

前髪。
目元。
鼻。
頬。
唇。

ゆっくりと。

「ヒイロ・・・?」

小さな声で彼を呼ぶ。
起こすつもりなど、ないけれど。
ただ、呼びたくて。

私もまた、人恋しくて、寂しい人間だから・・・。

すぐに目覚めてくれると思った。
だけど・・・。
彼は少し瞼を動かしただけで、目覚める気配はない。
小さなため息。
あきらめて、彼に背を向けて目を閉じた。

途端・・・。

肩に手が触れた。
振り向く。
彼がこちらを見ていた。

「どうした・・・?」
掠れた声。
彼の寝起きの声。

「起きていたの・・・?」
「今、起きた」
「本当に・・・?」
「・・・・・・」
彼が小さなため息をつく。
「・・・小さな指が、いたずらするからな」
「・・・ごめんなさい」
「別に、いい。・・・ただ」
「ただ・・・?」
いたずらっぽい、妖しい光を帯びた彼に瞳を覗き込む。
「やり返すだけだ」
彼はにやりと不適な笑みを浮かべて、そう言った。

「・・・覚悟はしていたけど」

彼の指に遊ばれる自分を思い浮かべ、体が震えたのは、言うまでも無い。

本当に彼は・・・かわいい人。


Fin

「あとがき」
久しぶりに、新作。最近は、書きかけのものを片付けるということばかりをやっていた気がするので、ちょっと新鮮ですね。
もう、あれですね。誰かの視点で書くというスタンスが、私の中で固まってしまったのか、こういう書き方しか出来ません。断言は出来ないけど・・・。でもね、この書き方のいいところは、感情移入しやすいところね。「私」や「俺」になって読めるから、楽しい。
と、思うのは私だけかもしれないけど・・・ね。

2004.10.6 希砂羅