「夏爛漫 恋爛漫 愛爛漫」




「暑いですわ」
リリーナが眉を寄せる。
「夏だからな・・・」
「そんな涼しい顔で言わないでください」
「俺だって暑さは感じるぞ」
「でも、涼しい顔をしているように見えます」
「元々こんな顔だから仕方がないだろう」
「ヒイロって、あまり汗をかかない体質ですか?」
「・・・そうかもな」
「わたくしもそんなにひどい汗かきではないのですけど、肌がベタベタするのは許せませんわね、気持ちが悪くて」
「・・・夏は仕方がない。我慢しろ」
「冷たいですわね」
「お前がわがままなんじゃないのか?」
さすがにこの言葉にリリーナはムッとしたようで、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
「リリーナ」
名前を呼ぶが、今はさすがにいつものように振り向かない。
だから・・・抱きしめた。
「ヒ、ヒイロっ。こんなことしたって、許してあげませんわよ」
そのままヒイロは顔を下げ、リリーナの頬に唇を寄せる。
「んっ・・・。もうっ。そんなことしたって無駄です」
リリーナがヒイロの腕の中でもがく。
「・・・俺も汗をかく時はあるぞ」
「え?それはどんな時ですか?」
ヒイロの言葉に思わずリリーナは抵抗を緩め、ヒイロへ顔を向けた。
「実証してやる」
ヒイロはリリーナの身体を抱け上げて寝室へ。
「えっ、ちょっ・・・、ちょっとヒイロっ」
腕の中で暴れるリリーナをヒイロはベッドへ下ろす。
「何をするつもりですか?」
「ベッドの上で男と女がすることと言ったら一つしかないだろう?」
ヒイロがわざと耳元で囁く。
「・・・馬鹿」
リリーナが耳まで真っ赤になりながらヒイロを睨む。
「こんな昼間から・・・嫌です」
「夜まで我慢しろと?」
「・・・そうしてください」
「・・・だったら、キスだけさせろ」
「っ!・・・わかりました」
リリーナの言葉にヒイロは一瞬、にやりと口の端に笑みを浮かべると、リリーナの唇に深く口付けた。
「んんっ!」
容赦のないヒイロの深く激しい口付けにリリーナはジタバタして暴れた。
暴れだしたリリーナにさすがにヒイロも勘念したのか、口付けを解いた。
「ヒイロのばかっ!」
一声叫ぶと、リリーナはヒイロを突き飛ばし、部屋を飛び出した。
それを見送り、ヒイロは重いため息を落とした。
「度が過ぎたな・・・」


 咄嗟に飛び出したものの、行く宛があるわけもなく、仕方なくリリーナはとぼとぼと敷地内の庭を歩くことにした。
 (せっかくの2人きりのお休みでしたのに・・・)
なぜこんなことになるのかとリリーナはため息を落とした。
(久しぶりに会えて嬉しかったのに・・・。こんなはずではなかったのに・・・)
自分も少し大人気なかったかと少し反省するものの、すぐにはヒイロの元へ戻る気にはなれなかった。
 
結局、庭の出口、言わば屋敷の正門まで来てしまった。
その時、目の前に知っている顔が立っていた。
本来なら、ここにはいないであろう人物。
「デュオさん?」
「おお、お嬢さん。久しぶりだね」
デュオはいつもの明るい笑顔でリリーナに挨拶する。
「どうしてここへ・・・」
「いや、少しばかり地球に用があってね、たまたま目的地がここの近くだったんで、お嬢さんに挨拶でもしていこうかと思ってさ」
「そうなのですか」
「・・・えーと、ヒイロと一緒じゃないの?」
「え、ええ。ちょっと・・・」
リリーナは思わず顔を赤くする。
「ふーん・・・。ん?あれ、お嬢さん、唇、少し赤くなってないか?」
「え?」
咄嗟にリリーナは唇を手で隠すように塞いだ。
それを見たデュオは、にやり、と笑った。
「ふ〜ん・・・。なるほどね・・・」
「な、何がなるほどなんですかっ」
「いや、何となーく、お嬢さんが一人で庭を散歩してる事情が分かったからさ」
「一人で散歩してはいけませんか?」
「ヒイロと一緒にここで休暇を過ごしてるんだろ?だったら、ヒイロも一緒にいるのが当然だろ?なのに、お嬢さんは唇を腫れたみたいに赤くして、一人でここにいる。不自然だよなぁ。ヒイロとケンカでもしたのかい?」
「ケ、ケンカなどでは・・・。わたくしが一人で怒っているだけです」
そこまで言って、リリーナはしまったと思った。
案の定、目の前のデュオはにやりと笑みを浮かべている・
「ヒイロに無理やり押し倒されでもしたのかい?」
「べ、別に・・・」
「ま、あいつも男だからね。好きな女に久しぶりに会えて、そうしたいって思うのは普通なのかもな」
「え?」
「そこらへんが、女と男の違いだよな。わかってやんな、あいつの気持ち」
「ヒイロの気持ち?」
「わかんないなら聞けばいいんだよ、ストレートに。あいつのことだから、答えがYESなら沈黙。・・・ま、言わなくてもお嬢さんの方があいつのことはよく知ってるだろうけどさ」
「・・・そうね。わたくし、ヒイロの気持ちを何も考えずに・・・。ありがとう、デュオさん。大事なことを気付かせてくださって」
「いや。恋のアドバイスならまかせな。いつでも力になるぜ」
「ありがとう」
「じゃ、行っといで。俺はもう失礼するよ」
「はい。また、お仕事で」
「ああ。それじゃ」
去っていくデュを見送り、リリーナは小走りで屋敷へ戻った。

 息も絶え絶え、部屋へ辿りつき、一つ深呼吸をして部屋のドアを開ける。
ヒイロは、窓辺に寄りかかって俯いていた。
「ヒイロ・・・?」
リリーナはそっと側に寄ると、手を伸ばしてヒイロの頬に触れた。
ヒイロがゆっくりと顔を上げる。
「・・・・・・」
「あの、ヒイロ、さっきはごめんなさい。っ・・・」
その時、ヒイロの手が伸び、リリーナは抱きしめられた。
痛いくらいに力強く抱きしめるヒイロ。
「・・・軽蔑したか?」
耳元に届く低い声。
「え?」
「見損なったか?」
「何を・・・」
「答えてくれ」
「・・・わかったわ。だから、少し腕の力を緩めてくださらない?」
ヒイロの腕の力が緩まる。
リリーナは顔を上げ、ヒイロを真っ直ぐに見つめる。
目の前のヒイロは、傷ついたような顔をしていた。
そんなヒイロの頬をリリーナは両手で優しく包んだ。
「正直言うとね、少し・・・軽蔑、まではいかないけど、ショックだったの。だから、わたくしは・・・」
「・・・悪かった」
「もういいの。久しぶりに会えたのだもの、互いを求めてしまうのは、自然なことよね」
「・・・・・・」
「わたくしだって、本当は・・・・あなたに抱かれたい」
「リリーナ・・・」
「あなたの返事が欲しいわ」
ヒイロは自分の言葉に恥らいながらも微笑むリリーナを優しく抱きしめると、耳元で囁いた。
「・・・抱かせてくれ」
ヒイロのストレートな答えに、リリーナは頬を赤く染め、こくりと頷いた。

Fin

「あとがき」
終わった・・・・。疲れた・・・。長い・・・。次は秋なりよ。
2003.6.15 希砂羅