「青い鳥〜幸せへの扉〜」

第4話 

それはまさに、飛び込む、という表現がぴったりだった。
その勢いのまま、彼女の体ごと、地面に倒れる。
呆れた、よりも、怒れた、よりも、おかしかった。
知らず知らずのうちに、それはまさに自然に、自分の口から笑いが漏れる。
くくくっ・・・とそのまま体を揺らして笑う。
しばらくそうして笑った後、大きく息をついた。
「・・・お前は、どこまで無鉄砲なんだ」
ようやく落ち着くと、今度は彼女の行動に呆れた。
「まさか、押し倒されるとは思わなかった」
「・・・あなたが、消えてしまいそうで・・・怖かったの」
彼女が俺の胸に顔を押し付け、小さくつぶやく。
「わたくしの青い鳥を・・・捕まえたかった」
「青い鳥・・・?童話のか?」
「ええ・・・」
「お前の言う青い鳥とは、俺のことか?」
「そうよ。あなたはわたくしの、幸せの青い鳥。すぐに逃げてしまう。でも、諦められなかった。何としても、捕まえたかった」
「・・・捕まえたら、どうするつもりだ?籠に閉じ込めるか?」
「そうよ・・・」
俺の顔の横に両手をつき、俺を見下ろす。
「閉じ込めて・・・わたくしだけのものにするの・・・」
彼女の顔が近づく。
そのまま、受け入れた。
彼女の優しい口付けを。
それはあまりにも優しい、束縛。
けれど、それを解こうなど、微塵にも思わない。
捕らえられたまま、永遠に彼女の側に。
それはそれでいいかもしれない。
「俺が、お前にとって青い鳥なら、お前は俺にとっての青い鳥かもしれない」
「ヒイロ・・・」
「手を伸ばしても、手を伸ばしても、捕まえられない」
「・・・いいえ、ヒイロ。あなたになら捕まえられるわ。あなたが、わたくしを諦めないでいてくれたら・・・。その手を、怖がらないで伸ばしてくれたら・・・」
「リリーナ・・・」
「簡単に捕まえられる・・・」
彼女が俺の手を取り、自分の頬へそっと当てる。
「この手で、わたくしを捕まえて・・・」
彼女の瞳から零れた涙が頬から顎を伝い、俺の頬に落ちた。
「だって、あの時から、初めて出会ったあの時に、わたくしの心はあなたに捕らえられたのですもの。だから、体を捕られることはとても簡単・・・」
彼女が微笑む。
彼女の背に手を伸ばし、強く抱きしめる。
目を閉じて、体で、心で、彼女を感じる。
ようやく、この手に入れた。
それは、自分にとっての青い鳥。
これを・・・人は幸せと呼ぶのだろうか。

「好きです、ヒイロ」
「・・・ああ」
「ようやく、言えました。ずっと、怖くて言えなかった・・・」
「怖い・・・?」
「あなたに、この想いを受け入れられなかったら、どうしようかと・・・」
ふっ・・・と小さく笑うと、気付いた彼女が少し怒った顔で俺を見る。
「ひどいです、笑うなんて・・・」
「すまない。ただ、お前でもそんなことを考えるのかと思っただけだ」
「わたくしだって、どこにでもいる普通の少女だもの。好きな人を想って眠れない夜を過ごす時もあるわ」
「俺の、せいだな」
「ええ」
「だったら、そんな夜も今日で終わりだ」
「ヒイロ・・・?」
彼女の耳元へ口を寄せる。
「ん・・・。くすぐったいです、ヒイロ」
「一度しか言わないからよく聞いていろ」
俺の言葉に、首をすくめていた彼女の動きがぴたりと止まる。
「はい・・・」
と、小さく震え、目を閉じて彼女が耳を澄ます。
「・・・好きだ」
「はい・・・」
彼女の体が小さく震える。
シャツが濡れるのを感じ、彼女が泣いているのを知る。
背中に回した手で、彼女の背中をなだめるように優しく撫でた。

認めてしまえば、とても簡単なことだった。
欲しいものを欲しいと、言える勇気、その強さ。
今までの俺には無かったもの。
必要の無かったもの。
けれど、それは彼女と出会う前までのこと。
いつの間に俺はこんなにわがままになったのだろう。

目の前にあった、「幸せ」への扉。
その存在を無視し、気付かぬ振りをした。
無関心を装って、自分を壊す何かを無視した。
それで良かった。
そう、彼女に出会うまでは。

手に入れたのは、幸せの青い鳥。
目の前にある、幸せへの扉。
そのドアを今、開ける。
そのドアの向こうに彼女がいる。

そのドアを今・・・開ける・・・。


Fin

「あとがき」
うん、終わった。思ったより早かった。書いた直後はわからないけど、少し時間が経つと変な部分も見えてくるかもしれないから、書き換える部分も出てくるかな。でも、とりあえず、終わった。・・・というか、私の場合は終わらせる、という表現に近いのだけど。でも、書いている途中、以前に読んだ他の方が書かれたヒイリリのSSにダブル部分も感じてて、そうならないようにする、その葛藤のようなものがあって、ちょっと苦しんだ部分も実はある。何はともあれ、お疲れ様でした、自分!!

2005.6.2 希砂羅