「目覚めは笑顔で」




「ねえ、ヒイロ、教えて」
彼女はテーブルに肘を着き、両手を重ね合わせた格好で、一人、窓から遥か遠くを見つめる。
向かいに座った俺は、一人、取り残されたような気分を味わいつつ、彼女の視線を追い、同じように窓から遠くを見つめた。
その彼女が、口を開いた。
「わたくしは、どんな罪を背負っているのでしょうか・・・」
虚ろな瞳。
今にも気を失って倒れるのではないか、そんな心配をしてしまう。
だが、彼女が発した言葉で、そんな想いは吹き飛んだ。
「何を・・・?」
彼女の横顔へ問いかける。
「この前の会議で何かを言われたのか・・・?」
「わたくしが今までしてきたことは、間違いだったのでしょうか・・・」
「・・・俺はそうは思わない」
彼女はこちらへゆっくりと顔を向けると、ふっと儚く微笑んだ。
「ありがとう・・・」
「休め。疲れているんだろう。疲れているから、そんな弱音が出る」
「・・・そう・・・ね・・・」
「ベッドまで連れて行ってやる」
「ありがとう。でも、歩く力は残っていますわ」
「俺が、望んでそうしたいと言っても・・・?」
俺の言葉に、彼女は目を丸くしたが、やがて、ゆったりと微笑むと
俺へと手をすっと差し出した。
「では、お願いしますわ」
その手を取り、立ち上がる。
手を掴んだまま、彼女の前まで周り、その手を引いて彼女を立たせた。
「ヒイロ・・・」
「何だ」
「わたくしの望みも、聞いてくださいますか?」
「・・・ああ。言ってみろ」
「・・・抱きしめて」
そう言うなり、彼女は俺の胸にもたれかかった。
そのまま、彼女の背へ腕を回す。
少し加減して、けれど、強く抱きしめた。

「っ・・・ふっ・・・っ・・・」
しばらくして、彼女の口から嗚咽が漏れ始めた。
普段、自分よりも一回りも二回りも年上の者たちを相手にしている彼女。
弱さを見せまいと、必死に我慢をしてきたのかもしれない。
その彼女が、今、俺の腕で泣いている。
彼女が泣きつかれて寝てしまうまで、俺はそのまま、彼女を抱きしめていた。

数時間後、ベッドで目覚めた彼女が笑顔ならいいと、そんなことをふと思った。


Fin




「あとがき」
脈絡もなく、目的もなく、書いてみました。相変わらず、後先も考えずに書く人・・・。
迷いながら書くと、何だか簡素な内容になります。
内容がほとんど無いので、題名も浮かばない・・・。とりあえず、最後の一文で決めました。すみません、こんな駄文ばかりで・・・。

2004.9.5 希砂羅