小話集*****その2
2005.4.12〜5.14日記書き込み分収録



2005年05月14日(土)

「遊び」



 夕食が終わり、3人で食後の紅茶を飲んでいる時、ねぇ、父さん、とヒリオがヒイロに向かって話しかけた。
「何だ」
「父さんが子供だった時ってどんな遊びをしたの?」
それは子供らしい、何気ない質問であったが、ヒイロとリリーナにとって、その質問は、危険な質問だったかもしれない。
その証拠に、2人とも、黙り込んでしまった。
「?」
質問をした当の本人、ヒリオだけは、何かいけないこと聞いたのかな?と首を傾げている。
「あ、あのね、ヒリオ」
リリーナがこの空気をどうにかしようと口を開きかけた時
「いい、リリーナ。俺が話す」
とヒイロがリリーナを制した。
「父さんが子供の頃は、本ばかり読んでいたな。子供らしい遊びはしなかった」
「そうなの?」
「ああ」
「一度も遊ばなかったの?友達いなかったの?」
子供の質問は容赦がない。
「・・・どうだろうな。もう忘れた」
「ふーん・・・」
「期待に添えなくてすまなかったな」
「え?」
「遊びを教えてもらいたかったのではないのか?」
へへっとヒリオは笑った。
「当たり。でも、いいよ。何で父さんが頭がいいのかわかったし。僕もわがまま言ってないで父さんを見習わなきゃね。ね、母さん?」
ヒリオがリリーナに話を振ると、なぜか俯いて2人の会話を聞いていたリリーナは、顔を上げ、泣き笑いのような微妙な表情を浮かべた。
しかし、堪え切れなくて、瞳から涙が零れた。
「ど、どうしたの?母さん」
ヒリオは驚いてリリーナの側に寄った。
「ごめんね・・・。目にゴミが入ってしまったみたい。目を洗ってくるわ」
リリーナは目を押さえると、席を立ち、リビングを出て行った。
「様子を見てくる」
そう言うと、ヒイロもリビングを出て行ってしまった。
残されたヒリオは訳がわからないまま、冷めてしまった紅茶をすすった。

リリーナは、キッチンにいた。
「リリーナ」
ヒイロが声を掛けると、慌てて振り返った。
「お前が何で泣いているか、当ててやろうか?」
「・・・・・・」
リリーナは少し小首を傾げ、黙ってヒイロを見つめ返す。
「俺が嘘を言ったからだろう?嘘をつかなければならない俺に同情したか?」
リリーナは少し笑みを浮かべて首を横に振った。
「・・・優しい嘘だった。だから、嬉しかったの。あなた、段々父親らしくなってきたわ。・・・自覚はあって?」
「・・・わからない」
「抱きしめてほしいのだけど」
唐突にリリーナが言った。
「何だ、それは」
呆れたようにヒイロが言う。
「いいじゃない。駄目?」
と聞きつつ、ヒイロが答える前にリリーナは体をヒイロに預けている。
ヒイロはその背中をそっと撫でた。
「・・・少ししたら戻るぞ。ヒリオが心配してる」
「ええ」
「今日は嘘をついたが、いつかヒリオには本当のことを話そうと思う」
「・・・そうね」
リリーナは頷くと、ヒイロから身体を離した。
「・・・もう戻った方がいいわね」
「ああ」

2人して揃ってリビングに戻った。
「大丈夫?目」
「ええ、ごめんね。大丈夫よ」
「目、少し赤いね」
「泣きすぎちゃったから」
「・・・母さんも、子供の頃は本ばっかり読んでたの?」
「そうね・・・。お友達はたくさんいたけれど、遊びらしい遊びはしなかったわね」
「お嬢様さまだもんね、母さん」
「・・・嘘をつくな」
ぼそり、とヒイロが言った。
え?
「物静かな令嬢だったとは思えないがな」
「まぁ、ひどい。そんなことないわ」
ぷいっとリリーナがそっぽを向く。
「確かに・・・少しはお転婆なところもありましたけど」
「やっぱりな」
ヒイロが苦笑する。
2人のやりとりを、頬杖を付きながら眺めるヒリオ。
これを痴話げんか、と世間は言うのかな、とか思いながら。
その痴話げんかは自分の一言が招いたということも忘れて。


fin







2005年05月13日(金)
「好きなところ2 」


ある休日の母と子の会話。
「ねぇ、母さん。母さんは父さんのどこが好きになったの?」
息子のヒリオにそう聞かれ、リリーナは料理をしていた手を止めた。
「父さんのどこが好き、か、ですって?」
「うん」
「そうねぇ」
とリリーナは微笑み、どこか遠い目をする。
すぐには返事が返ってこないので、ヒリオは、おや?という顔になる。
(父さんとは違ってすぐに返事が返ってくると思っていたんだけど・・・な)
「難しい質問ね」
やがてリリーナが答える。
「え?」
「一言で、どこが好き、っていうのは難しいわね」
料理を再開させながらリリーナが言う。
「そうなの?」
「父さんの、彼のどこか一箇所に惹かれて好きになったわけではないし。無口で、無愛想で冷たい人だけど、本当は誰よりも優しくて、傷つきやすい人だって気がついて、彼の側にいると安心する自分に気がついたわ。それを恋と呼ぶのかはわからないけれど」
そう言うリリーナは幸せそうで、少し頬を染めて微笑みを浮かべていた。
「父さんは、とても強い人よ。だから、私は彼の強さが欲しかった。だから、夢中で彼を追いかけた。父さんは嫌がっていたけれどね。・・・言葉で説明するのは難しいわね」
「父さんて、気難しい人だって思ってたけど、最近は、何か、そう思わなくなってきた。自分からはあまり話しかけてこないけど、こっちから話しかけてけば、困った顔しながらも一生懸命答えてくれようとするし」
「・・・大人になったわね、ヒリオ」
「え?まだ僕11歳だけど」
そう怪訝な顔をするヒリオにリリーナはくすっと笑みを漏らす。
「成長したわねっていう意味よ」
「あ、そういう意味なんだ」
「ねぇ、ヒリオ?最近、そういう質問が多いのは、自分が恋をしているから、なの?」
(さすが母さん・・・)
「そうなの?ヒリオ」
「・・・うん・・・まぁ、そうなのかなぁ。ていうか、人を好きになるってどういうことなのかなぁって」
「・・・その答えは出た?」
「・・・まだ」
リリーナは微笑むと、片手でヒリオを抱き寄せた。
「・・・たくさん素敵な恋を経験して、本当に大切と思える人を見つけられるといいわね。母さんは、一度の恋で結ばれたけれど」
と小さく舌を出す。
「僕も、母さんと父さんみたいな恋がしたいな」
「出来るわ。あなたは父さんと母さんの子供だもの」
「うん」
母さんの言葉はいつも説得力があって、本当にそうなるような気がしてくるから不思議だ。

僕にもやがて素敵な恋がやってくる。
たぶん・・・・・・。

Fin






2005年05月11日(水)

「好きなところ」


ある日の父と子の会話。
「ねぇ、父さん、聞きたいことがあるんだけど」
部屋を訪れ、そう切り出したヒリオにヒイロは苦い物でも噛んだような顔をした。
「今度は何だ」
「・・・そんな嫌な顔をしないでよ。父さんと話したいんだもん」
息子にそう言われてしまうと、ヒイロも嫌とは言えない。
仕方なく、ヒリオを自分の向かいの椅子に座らせる。
「で、今日は何を聞きたいんだ?もう恋のアドバイスはしないぞ?」
「わかってるよ」
「だったら何だ」
「・・・父さんは、母さんのどこが好きなの?」
「・・・リリーナのどこが好きか、だと?」
ヒイロの眉間に皺がよる。
「うん。前に、2人は恋愛結婚だって言ってたでしょ?てことは、互いに好きで結婚したわけで」
ヒイロの眉間の皺が深くなる。
「・・・具体的に何処が好き、とは考えたことがない」
「は?」
ヒイロの言葉にヒリオは呆れた声を出した。
「・・・前に、リリーナが、2人が出会ったのは“運命”だと言っていたな」
「うん。言ってたね」
「もし、その運命というものが本当に存在するのなら、2人が出会ったのは本当に運命だったのかもしれないな」
ヒリオは驚いた顔でヒイロを見つめた。
(父さんからそんな言葉が出るなんて思わなかった・・・)
「だが、出会った時には、そんなことは微塵も感じなかった。一緒の人生を歩むことになるとはな。なぜなら俺はあいつを」
と言いかけて、ヒイロは黙り込んだ。
さすがに、この先を続けたらヒリオは傷つけるかもしれないと感じたのだ。
「俺はあいつを、の続きは?」
「・・・・・・」
「ねぇ、教えてよ、父さん」
「・・・どうしても知りたいのか?」
「うん」
「・・・聞いたら後悔するかもしれないぞ」
「・・・いいよ」
正直、聞いたら後悔するかもしれないと言われ戸惑ったが、余計に気になったのも事実。
「俺はあいつを殺そうとしていた」
「・・・え?」
「・・・・・・」
ヒイロはため息を落とした。
「・・・だから言いたくなかったんだ」
「・・・今は、違うでしょ?今は、そんなこと思ってないよね?」
ヒリオの目からは涙が流れた。
そんなヒリオの頭をヒイロがそっと撫でる。
「当たり前だろう。・・・俺はあいつを愛している、心から」
「父さん・・・」
ヒリオは嬉しそうに笑った。
「で、どこが一番好きなの?」
まだ言うか。
ヒイロは半分呆れつつ、どこか遠いところを見つめるような表情をした。
「あいつのどこに惚れたのかと、敢えて言うのなら、あの強い意志を秘めた瞳と、あの笑顔・・・」
と言いかけて、ヒイロはハッとしたような表情をした。
何かに失敗した時のように、シマッた、という表情になる。
そんなヒイロをヒリオはニヤリ、とした表情で見つめる。
「父さんがのろけるの初めて聞いちゃった♪」
「なっ。の、のろけてなどいないっ。口が滑っただけだっ」
「母さんに言っちゃおうっかなぁ。母さん、泣いて喜ぶよ、きっと」
「ヒリオ」
ヒイロの声が低くなる。
その低い声に、ヒリオはハッとする。
地雷を踏んでしまったらしい。
「リリーナには言うな。今度約束を守らなかったら、おこづかいはストップだ」
「えー!?それだけは勘弁してよ、父さん。おこづかいストップされたら困るよ、買いたいものいっぱいあるんだから」
「だったら、約束を守るんだな」
「・・・はい」
シュンとなってしまったヒリオは、ヒイロの部屋を出て行こうと部屋のドアに手を掛け、開いた。
瞬間、固まった。
目の前にリリーナが立っていた。
(か、母さん、いつからそこに・・・)
口をぱくぱくさせ、しゃべれないヒリオに、リリーナは困ったように笑って、部屋の奥のヒイロを見つめる。
ヒイロは、機嫌悪そうに目を逸らしている。
「ただいま、あなた、ヒリオ。今、お夕食の支度するわね」
リリーナはそれだけを言うと、階段を降りて行った。
(あれ?母さん・・・?)
ヒイロを振り返る。
ヒイロは本に目を落としている。
逃げよう。
何か、恐い。
ヒリオはそう思うやいなや、一目散に部屋に逃げ帰った。

 夕食の時間。
リリーナは何も言わなかった。
ただ、今日、仕事であったことを話すだけ。
ヒイロもいつもと変わらず、それに相槌を打っている。
一方、ヒリオは一人、ビクビクと食事をしていた。

夜。
寝る支度をしてベッドに身体を沈める。
「そう言えば、最近、言ってくれないわね」
唐突にリリーナが言う。
「何をだ」
「あなたの・・・“愛してる”」
ヒイロが固まる。
(聞いていたな・・・こいつ)
「寂しいわ、何だか」
リリーナが少し頬を膨らます。
どうやら、言うまで寝かせてくれなさそうだな、とヒイロはため息をつく。
「あら、そんなに嫌なの?」
リリーナはヒイロの顔を覗き込んだ。
(なるほど、目を見て言えというわけか・・・)
追い込まれるヒイロ。
ヒイロは腕を伸ばし、リリーナをそっと抱きしめる。
リリーナは嬉しそうにヒイロの胸に擦り寄る。
「・・・世界で一番愛してる」
ヒイロの言葉に、リリーナは思わず驚いた目でヒイロの顔を見つめる。
「・・・不服か?」
どこかすねたような表情のヒイロ。
そんなヒイロに、リリーナは微笑む。
「いいえ。わたくしも、あなたのことを世界で一番愛しています」
ヒイロの硬い表情が少し緩んだ。
「聞いていたんだろ?俺とヒリオの会話」
「・・・少しだけ」
リリーナの瞳がいたずらっぽく揺れる。
「・・・ったく」
「最近、あなたとヒリオがあんまり仲がいいから、少し妬いてしまうわ」
「・・・仲がいい?」
「あら、2人で仲良くお話しているでしょう?」
(あれは仲がいいと言うのか・・・?)
「・・・それで、わたくしのどこが好きなの?」
「・・・・・・」
再び固まるヒイロ。
今夜は寝れないかもしれない。


Fin

「あとがき」
ラブラブです。顔がにやけてしまうほど・・・。





2005年05月10日
「恋のアドバイス」


ある日の父と子の会話。
「ねぇ、父さん」
「何だ」
ヒイロは読んでいた新聞から顔を上げた。
「恋のアドバイス、してほしいんだけど」
年頃(?)の息子の何気ない言葉に、ヒイロはまさに石のごとく、ピシッと固まった。
「父さん?」
(・・・やっぱり父さんにする質問じゃなかったかな)
とヒリオはちょっと後悔。
ヒイロは固まりながらも頭の中では混乱して、さまざまな考えが渦巻いていた。
(ヒリオは何て言った?恋?恋のアドバイスだと?この俺がか?出来るのか?この俺が。しかし、息子の期待を裏切ることは出来ない・・・。だが、どうしたらいい?何て言ってやればいいんだ!?)
ついにはヒイロのこめかみから冷や汗がたらり。
それを見たヒリオはさすがに焦った。
(やっばいなぁ。父さん、固まっちゃった・・・。思い切り困らせちゃったみたいだ)
ヒリオが、もういいよ、と言いかけた時、ヒイロがようやく渋い顔を上げ、放った一言に、次に固まったのはヒリオの方だった。

 仕事から帰ったリリーナをヒリオは笑顔で迎えた。
「ただいま。なぁに?機嫌いいわね。何かいいことでもあったの?」
ぽんっとヒリオの頭に手を置いてヒリオの顔を覗きこんだ。
「あのね」
と言いかけて、ハッとして口をつぐんだ。
(父さんに固く口止めされていたんだっけ)
「どうしたの?急に黙り込んで」
「な、何でもないよ」
「嘘おっしゃい。今、何か言いかけたじゃないの」
「・・・父さんと約束したんだ。母さんには絶対に内緒だって」
「父さんと約束?まぁ、珍しい」
リリーナは瞳をしばたたくと、にっこりと笑顔を浮かべた。
「父さんには聞いたこと言わないから教えて」
「だ、駄目だよ。父さんと約束したんだもん」
「お願い」
「絶対に言わない」
「もう、そういう所はヒイロに似て頑固なんだから」
と頬を膨らませつつ、リリーナはまだめげなかった。
「父さんには聞いたこと言わないって約束するから教えて、ヒリオ君」
リリーナが甘い声を出す。ね?とウィンクまでする。
(ヒリオ君て・・・子供に色仕掛けかい、母さん)
と呆れつつ、それ以上しつこく聞かれるのが嫌になったヒリオはついに重い口を開いてしまった。
「・・・実は、父さんにね、恋のアドバイスを頼んだだけど」
「恋のアドバイス?父さんに?あの、ヒイロに?」
リリーナは目を丸くした。
「父さんは何て?」
「10分近く渋い顔で困った顔して固まってて、さすがにまずい質問したなぁと思って、もういいよって言おうとしたら、ようやく顔を上げて一言」
「何て言ったの!?」
リリーナの瞳は輝いていた。
そんなリリーナにヒリオは一瞬引いた。
(うわ、母さん、すっごく興味津々て感じ・・・)
「・・・えっと、“惚れた女には逆らうな”・・・だったかな」
一瞬の間の後、リリーナは笑い出した。
目には涙さえ浮かんでいる。
「か、母さん?」
「ごめんね・・・」
リリーナは笑いをようやく引っ込めた。
「父さんには言ったこと内緒だからね」
「・・・わかってるわ」
そう言うリリーナは何やら幸せそうだ。
鼻歌まで歌って階段を登って行った。
(あー、絶対言うな、あの様子じゃ)
ヒリオは呆れ顔でそれを見送った。

「ヒ・イ・ロ♪」
リリーナはヒイロの返事を聞く間もなくヒイロの部屋のドアを開けた。
ヒイロは何事だ、と眉を潜めて読んでいた本から顔を上げた。
「ただいま、あなた」
にっこり笑うリリーナ。
ここまで上機嫌なリリーナをヒイロは珍しいものでも見るように見つめた。
その笑顔に寒気さえ感じるヒイロだった。
「機嫌がいいな」
「うふ、ちょっといい事があったの」
そう言うと、リリーナはヒイロの背中に回り、腕をヒイロの首に回すようにして抱きついた。
「・・・惚れた女には逆らうな。あれ、本気で思ってたの?」
耳元で囁かれた言葉に、ヒイロはガバッとリリーナに顔を向けた。
「ヒリオに聞いたのか」
ヒイロは苦い顔。
「私が無理やり聞いたのよ」
「・・・・・・」
「・・・惚れた女って、私のこと?」
「・・・他に誰がいる」
「・・・どうしてそんなこと思うの?」
「・・・お前の機嫌をそこねると後々が面倒だからだ」
「まぁ」
リリーナはむぅと頬を膨らませた。
まるで少女のようだ。
「・・・それにしても、ヒリオに恋のアドバイスを求められるなんてね。ヒリオもそういう年頃になったのね」
「ああ・・・」
「ヒリオの恋の相手はどんな子かしら」
「さあな」
とヒイロは本に顔を戻す。
それを合図に、リリーナもヒイロから身体を離した。
「着替えてくるわ」
とリリーナが部屋を出て行こうとするのを、ヒイロが呼び止めた。
「お前だったら何て答える?ヒリオに同じ質問をされたら」
「そうね」
リリーナは考えるようにつっと顎を上げ、やがて顔を戻し、笑顔で言った。
「大好きな人には、正直であること。それから、本気で好きならあきらめちゃ駄目よ」
そしてウィンクを一つ。
ヒイロは苦笑を浮かべると、まいった、とばかりに片手を挙げた。
リリーナはドアに掛けていた手を離すと、ヒイロの側に戻ってきた。
「どうした?」
「大好きよ、あなた」
そう言って、リリーナはヒイロにキスした。
ヒイロは驚いてリリーナを見つめ返す。
ヒイロは苦笑し、リリーナにキスを返した。
それから、リリーナを抱きしめると、深く口づける。
何だかんだで、ラブラブな2人なのであった。

その頃、何も知らないヒリオは自分が口を滑らせてしまったことで2人が喧嘩していたらどうしようかと、一人悩んでいたのだった・・・。 

Fin




「あとがき」
  読めばわかると思いますが、ヒイロとリリーナの夫婦と息子のお話です。私の処女作である「新機動戦記ガンダムW オリジナル番外編“ENDLESS LOVE”」(長い題名だ・・・)という小説の番外、といったところでしょうか。本編は割りとシリアス?路線なんですが、この番外では、おもしろ路線で行こうと思っています。気楽に読める小説。深いことを考えずに、素直に読んでいただけると嬉しいです。
よくわからんが、とりあえず、ラブラブな2人になりました




4000HIT記念SS
2005年05月04日(水)
「見えない空 見えなかった空」

何故だろう。

彼女は自問し、自分で答えを見つけようとする。
一人で悩み、一人で苦しみ、一人で泣いて。
顔を上げれば、すぐそこに、手は差し伸べられているのに。
人は時に、そんな簡単なことが出来なくなる。
だからこそ、人生は楽しいのか。
そんなことを、今の彼女に考えられる余裕はない。

切羽詰っている。
単純に表現するならば、たったそれだけのこと。
空を仰ぐ時間すら、今の自分にはない。
今が晴れなのか、曇りなのか、雨なのか。
それを目にする余裕すら、今の自分にはない。
何て・・・悲しいことだろう。

いや、きっとふっと体の力を抜いて顔を上げれば、それで済むこと。
窓を開けて、空を仰ぎ見れば、それで済むこと。
そんな簡単なことが、今の自分には出来ない。
それが・・・悲しい。


「また、そうやって一人で自問自答して苦しんでいるのか?」

声が聞こえた。
それは窓の外。
顔を上げて窓へ顔を向ける。
声を聞いただけで、それが誰かはすぐにわかったけれど・・・。
彼の顔を見ただけで、じんわりと胸が熱くなる。
その彼の後ろに見えたのは、見たくても見えなかった空・・・。
「外は、晴れているのですか?」
自然とそんな言葉が口から出る。
「自分で確かめろ」
彼はそう言って、窓を大きく開いた。
部屋に差し込んだのは、明るい日差し。
「いい天気ですね」
その日差しの眩しさに目を細める。
手に持っていた書類の束を机に置き、窓辺に寄る。
視界に入ったのは、これでもかと言うほどに良く晴れた空。
「仕事を片付けるのは大事だ。後々のことを考えれば、早く済ませた方が楽だからな。だが、空を見上げる時間を持つことも、大事だと思わないか?」
「ええ・・・。本当に、そうね・・・」
澄んだ空。
木の上でおしゃべりをする鳥たち。
流れる雲。
気付かなかったのが不思議で仕方がない。
それほど自分は仕事に没頭していたということか。
そんなことがひどく悲しくて、思わず零れたのは、ため息ではなく、涙。
つー・・・と瞳から零れた涙が頬を伝い、顎を伝い、床に落ちた。
彼の手が伸びて、頬に触れる。
それはとても自然な動作で、その手のむくもりに、その優しさに意識がいく前に、それは重なった。
軽く触れて、それは離れた。
それが口付けだと、意識する前に。
「ヒイ・・・ロ・・・?」
何をしたの?
と彼を見上げる。
「お前の泣き顔は、見たくない」
ぼそっと言うと、彼は顔を逸らし、空を見上げた。
「ひどいです、ヒイロ。そんな優しいことをされたら・・・余計に泣けてしまいます」
そう言うと、彼はバツが悪そうな顔をして振り返った。
彼には心外だったらしい。
「・・・嘘ですよ」
囁いて、少し背伸びをして彼の頬に口付けを。
彼は不意打ちをくらったのか、思わず後ずさりする。
そんな彼の動作がおかしくて、笑いが込み上げる。
彼は不意打ちが苦手なようだ。
次はどんな手で彼を困らせようか。
そんなことを考えてしまう。

「ヒイロ」
わたくしに不意打ちをくらったことがよほど悔しかったのか、彼はすねたように再び顔を外へ向けてしまった。
そんな彼の手を取る。
「わたくしをお庭まで、エスコートしてくださいます?」
彼は顔を振り向かせ、少し考えるようにわたくしを見つめた後、頷いた。
「・・・ああ」
「ありがとう」

見えない空。
けれど、それは見えなかった空。
自分が見ようとしなかった空。

空を見ること。
それはとても簡単で。
けれど、人は時にそんな簡単なことが出来なくなる。

差し伸べられた手。
その手を取れば、ほら、空が見える。
綺麗な空の下、あなたに手を引かれ・・・。
わたくしは至福の時間を手に入れた。

Fin

「あとがき」
4000HIT、ありがとうございます!
サイトを開いたら、丁度カウンターが4000でして、あ、何かSSを書かなきゃ、と思ったんですが、丁度書きかけのSSがあったので、あら、丁度いいわ、ということで、このSSを4000HIT用にしてしまいました。
この話はですね、もう長いこと(2、3ヶ月は経っていると思われる)書きかけで止まっていたのですが、でもボツにはしたくないなぁと思っていて。んで、何か書けそうな感じがしたので頑張って書きました。まあ、結局はヒイロ君に助けを求めたわけですが・・・。でも、あきらめずに今回無事書けて良かったです!!
4000行きました!これからもよろしくお願いいたします!!!

2005.5.4 希砂羅






3000HIT!記念SS
2005年04月11日(月)
「言葉に勝るもの〜あなたの熱〜」


 零れた滴を彼はその指で優しく掬った。
その指の温かさに、新たな涙が零れ、彼は困った顔をした。

「ヒイロ」
「何だ」
「好きです」
「・・・知っている」
わたくしの告白に、彼は瞳を反らさずに、静かに答えた。
「あなたへの想いで、胸は一杯で・・・。それが苦しいの。だけど、幸せと、感じてしまう。こんなにも誰かを想う事が苦しいなんて、知らなかった」
「・・・俺も、女に泣かれて困ったのは、お前が初めてだ」
彼があまりにも真面目な顔で言うので、思わず笑うと、彼は不思議そうな顔をした。
「何がおかしい?」
「あなたを困らせることが出来るのは、わたくしだけ?」
「・・・今は、そうだろうな」
「これからは?」
「これからは・・・、どうだろうな。なるべく困らせないでほしいが」
「努力はします」
微笑むと
「ああ、頼む」
彼は真面目な顔で頷いた。
彼の手が伸びて、わたくしの頬に触れた。
その手が、ゆっくりと頬を撫でる。
そっと、瞳を閉じた。
彼の手に、全てを委ねるように。
この想いの全てを、あなたに見せられればいいのに・・・。
言葉で伝えるのはとても難しい。
「リリーナ・・・」
彼が静かな声でわたくしを呼ぶ。
「はい・・・」
「俺と・・・」
彼はそう言いかけて、そのまま口を噤んだ。
頬に触れた彼の手に、自分の手を重ねる。
目を閉じていても、気持ちを言葉で伝えようと悩む彼の姿が見える。
「ヒイロ・・・?ありがとう、ヒイロ」
目を開けて、彼に微笑む。
「何が・・・だ・・・?」
彼は戸惑った顔でわたくしを見つめる。
頬に触れていた彼の手を、ゆっくりと自分の胸へ誘う。
「あなたの想いは、わたくしのここに、しっかりと届きました。
「リリーナ・・・。すまない・・・。言葉で気持ちを伝えるのは苦手だ」
彼が頭を下げる。
「だったら・・・」
「だったら・・・?」
彼が顔を上げて、わたくしの顔を覗きこむ。
彼は、わたくしの答えを知っているのかもしれない。
だって、その顔は少し、微笑んでいたから。
「あなたの熱で・・・」
恥ずかしいので小さな声で答えると、彼はその腕でわたくしを強く抱きしめた。
そして、耳元でそっと囁く。
「・・・了解した、リリーナ」

Fin

「あとがき」
最初は、3000HITということで、新しく話を書きたかったのですが、体調を崩して、それどころではなかったので、ネタ帳にあったものの続きを・・・という形になりました。この話、最初の題名は「和解」でした。自分でもこれを書いたことを忘れていて、なぜ「和解」という題名なのか・・・?と首を傾げてしまったのですが、しばらく考えて、おそらく「あいうえお作文」でボツになったものじゃないかな、と。にしても、読んでも、どこが「和解」なのか、さっぱりだったので、頑張って書き終えた後、題名を変えてみました。これのが納得でしょ?っていうか、そのままだし。というわけで、長くなりましたが、3000HIT、ありがとうございました!!

2005.4.12 希砂羅