「愛を囁いて」





視界の隅に映る、流れる長い髪。
気にしない振りをして、心の一部は、その髪へと奪われている。
手を伸ばして、その髪に触れたい衝動を必死に隠す。
自分からは決して求めない。
振り向いてくれるのをただ・・・待っている。
その髪を翻し、笑顔を向けてくれるのをただ・・・。

自分の愚かな考えを嘲笑い、彼女の元から去ろうとした。
その時・・・。
「逃げないで」
そう言い放つ彼女を見つめ返す。
「逃げる・・・?」
「何か言うことはないの?あなただって・・・今日のTVや新聞の報道は見たでしょう?
わたくしが今、どんな状況に置かれているか、あなたも知っているでしょう?」
嫌なことを思い出させる。
思わず顔を反らす。
「言っておきますけど、あれはわたくしの意志ではないわ。
周りが勝手に言っているだけよ。わたくしにそんな気はこれっぽちもないもの。
あんなおじさんと結婚するなんて。誰が・・・そんなことを望むものですか」
喉がカラカラに渇いている。
その喉を唾液で何とか潤し、彼女へ一言言い返そうと口を開いた時・・・。
彼女の顔が目の前にあった。
素早い動きだ。
くだらないことに感心してしまった。
事態はそれどころではいというのに。
「逃がさないわ」
そう宣告すると、俺の腕を掴み・・・無理やりに引き寄せた。
この細腕のどこにそんな力があるのか・・・。
そんなことをぼんやり思いながら、俺の体は彼女の成すがまま。
「好きよ・・・ヒイロ・・・」
そう囁くと、彼女は俺の口を塞いだ。
その・・・淡く色づく柔らかな唇で・・・。

「また・・・マスコミに叩かれるな」
ようやく開放された唇を開き、思わずそう零した俺に、彼女は自信有り気に微笑んだ。
「大丈夫ですわ。あなたはわたくしの優秀なSPだもの・・・」
意味ありげに微笑み、俺の耳元に唇を寄せ、そっと囁いた。
「愛しているわ・・・。あなただって・・・同じでしょう?」
「その自信はどこから来るんだ?」
「わたくしがキスした時、あなたが少しでも拒んだら、あきらめていたわ。
だけど・・・」
・・・ね?
と彼女は同意を求めるように俺を見つめる。
「・・・俺の負けだ」
もう素直に認めるしかない。
自分がどれだけ彼女を求めていたか。
「負け・・・?」
「俺は・・・お前を愛している」
「ヒイロ・・・」
「すまないな。・・・女が喜ぶような甘い言葉を俺は知らない」
「いいえ、ヒイロ。・・・愛している。その一言で十分です。
ありがとう、ヒイロ。とても・・・とても嬉しいです」
「リリーナ・・・」
「ヒイロ・・・」
あとは空気に流されるまま・・・。




Fin



「あとがき」
久しぶりに小説(?)を書いたので、何か変な感じ。
私が書くヒイリリってこんな感じだったかな。何て思ってみたりして。
まあ、たぶん、こんな感じなんでしょう。
私の書くヒイリリを好きだと言ってくださる方がいてくださる、それだけが、私の心の支えであります。
これからもどうか、よろしく。

2004.6.5 希砂羅