『いたずらな手 優しい手』







「うんっ・・・あっ・・・だめ・・・やぁ・・・」
彼の手が彼女の甘い声を誘う。
妖しく動く彼の手。

「駄目よ、ヒイロ」
彼女の細い手が、さらなる快楽を誘おうとする彼の手を制した。
「そんな声を出しておいて・・・何が駄目なんだ」
行為を中断され、いささか不機嫌な彼の声。
「だって・・・明日も仕事が・・・」
「そんな理由か・・・。明日の仕事は午後からだろう?
俺がそんなことも知らないと思ったのか?」
「あっ・・・いや・・・だめ・・・っ」
「本気で抵抗しなければ、やめないぞ?」
「ヒイロ・・・っ」
彼女が彼を睨む。
彼女にしてみれば精一杯の反抗であるが、
その目には力が入っていないのは言うまでも無い。
「そんな声で呼ぶな。ますます止められなくなる」
「だって・・・」
彼女の瞳に涙が滲むのを見て、彼はため息をつき、ようやくその手の動きを止めた。
「泣くな」
いたずらな手は、今度は優しく彼女の頬を撫でる。
「・・・泣かせたのはあなたですから」
潤む瞳で気丈に睨み返す彼女に、彼は降参するように手を離した。
「襲われたくないなら、どうして俺の部屋に来た」
「それは・・・」
彼の言葉に彼女は黙り込む。
「・・・リリーナ?」
「それは・・・あなたの側にいたいと思ったからですわ」
照れて耳まで赤くなった彼女は、それを隠すために俯き、その長い髪で顔を隠した。
その垂れた手触りのよい髪を掻き揚げ、彼女の顔を覗き込む彼。
近距離で、目と目が合う。
「・・・そんなに怯えるな。もう何もしない」
「・・・本当に?」
「ああ・・・。ただし」
「えっ?あっ・・・うん・・・」
彼の唇が彼女の唇を奪った。
その噛み付くような口付けに、彼女は甘い声を漏らした。
「何もしないって・・・」
唇が離れると、当然のように抗議の声を上げる彼女。
「ただし、キスだけはする」
「っ・・・してから言わないでくださいっ」
真っ赤な顔で言い返す彼女に、彼は苦笑を漏らし、彼女を抱きしめた。
その手で、まるで宥めるように彼女の頭を撫でる。
「・・・ヒイロ」
優しく抱きしめられ、彼女は言い返す言葉を失った。


彼の手は、いたずらに彼女を惑わせ、優しく彼女を抱きしめるために存在するかのよう。

今日も彼女は彼のいたずらな手に惑わされ、優しく抱きしめられ、
幸せを手に入れるのである。


Fin


「あとがき」
冒頭だけ読むと、Hな小説ですが、実は違うのよ。まあ、最近は割りと普通にその手の小説が書けるようになったのは否定いたしません。
こういう甘〜い話を書くのは楽しいですね〜。じゃれ合う(?)2人に身も心も熱くなる作者なのでした。

2004.2.24 希砂羅