「MY LOVER」

抱いて欲しいなんて
思っても言えない
女の口からそんなこと
恥ずかしくて言えない


「何だ」
彼が読んでいた本から顔を上げる。
「え?」
「俺の顔に何かついているか?」
「・・・いえ、何も」
短く答えて読みかけの本に目を落とす。

彼は時々、私の心を見透かしたような言動をするので、どきりとする。
私が彼の横顔を見つめて、何を考えていたかを知られたら、どうしよう。
そう思うだけで、どきどきする。
本に集中できない。
並ぶ文字を目で追うだけで、全然頭の中に入ってこない。

彼の手が・・・額に触れる。
え?
「熱でもあるのか?」
「熱?」
「顔が赤い。少し熱いな」
「・・・平気です」
「我慢するな。倒れる前に休んだ方がいい」
「大丈夫です・・・から」
「駄目だ」
にべも無く言われ、本を取り上げられる。
腕を引かれ、寝室へ連れていかれる。
「寝着に着替えろ。楽な服で休んだ方がいい」
「・・・本当に大丈夫ですから」
「駄目だ」
「嫌です」
「・・・どうしてそんなに頑固なんだ」
「・・・熱で顔が赤いわけでは、ないからです」
「どういう意味だ」
「・・・・・・」
「リリーナ?」
「・・・言えません。そんなこと」
はあ、とため息をつき、ベッドに腰を下ろす。
「・・・ごめんなさい」
「なぜ謝る」
「意地を張りました」
彼が私と同じようにため息をついて隣に腰を下ろす。
「俺も過剰になりすぎた」
「いいえ」
首を横に振り、彼を見つめる。
「・・・あの、ね?」
彼の手を握る。
勇気を持つために。
「・・・私は、女なの」
「?」
彼が不思議そうに私の顔を覗き込む。
「・・・あなたを好きな、一人の女なの」
声が震える。
緊張が高まって、涙が滲む。
「普通の、女なの。普通の女性が考えるようなことを、私も考えるわ」
「例えば?」
「例えば・・・」
俯く。
「抱いて・・・ほしい、とか」
恥ずかしい。
「・・・・・・」
「驚きました・・・か?」
彼の顔をそっと覗き込む。
「・・・それは、俺に我慢しなくていい、ということか?」
「え?」
手を握り返される。
「・・・俺も、普通の男だ。惚れてる女の側にいて、何も考えないわけがない」
「ヒイロ・・・」
どうしよう。
心臓が爆発しそう。
「・・・とんだシュチュエーションだな」
「え?・・・あ・・・」
顔を上げて部屋を見回す。
そうだ。
ここは寝室だ。
拒む理由は、もちろんない。
「無理強いはもちろんしない」
「・・・嫌なわけ、ない・・・わ」
彼の胸にもたれかかる。
「・・・抱いて欲しい・・・」
「リリーナ」
彼の手が、頬に触れ、指が耳に触れる。
ゾクリ、と走る感覚は・・・快感。
肌に触れる彼の手が、快楽を呼び覚ます。

甘い口付け。
蕩けてしまいそうな、甘い口付け。
熱い唇。
優しい指が、肌を滑る。
唇から零れる吐息さえ、心地よく肌をくすぐる。

意識はすでに、快楽の波にさらわれ、理性さえも保てなくなる。
もっと・・・。
深い快楽を求め、腕を伸ばす。
もっと・・・。
触れて。
私を感じて。
貴方を感じさせて。



浅い眠りから目を覚ます。
カーテンの隙間から月明かりが差し込み、部屋を照らしていた。
隣の彼は半身を起こし、外を見ていた。
その横顔を見つめる。
視線を下げ、目に飛びこんできたものに、赤くなる。
月明かりに照らされた彼の首筋・・・。
その白い首筋にくっきりと浮かぶ、赤い痣のような跡。
さらに視線を下げると、鎖骨にも同じような赤い跡。
「どうした?」
視線に気付いたのか、彼が振り向く。
「いえ・・・何も・・・」
急に恥ずかしくなって、シーツに顔を埋めた。
「リリーナ?」
彼が私の顔の横に手をついて見下ろす。
そっと目だけを覗かせる。
「ごめんなさい・・・」
「何のことだ」
「跡が・・・」
「跡?」
「あなたの肌に・・・」
「・・・ああ、これか」
彼が気付いて自分の首に触れる。
「気にするな」
「・・・恥ずかしい」
「そう言えば、初めてだな。お前が俺に跡を残すのは」
「・・・嫌ではないの?」
「何故?」
「だって・・・」
「お前が付けた跡なら、構わない」
さらりとそんなことを言われ、赤面する。
「・・・ヒイロって・・・女殺しなセリフを平気で言うのね」
「そうか?」
「自覚がないなんて・・・たちが悪いわ」
「お前も・・・な」
「わたくし?」
「お前も、男殺しなセリフを時々吐く。言われるこっちは堪らない」
「ヒイロ・・・ん・・・」
唇を塞ぐ、彼の唇。
優しく柔らかく舌を絡めとる舌。
髪を撫でる手。
抱きしめてくれる腕。

全部・・・・・・・大好き。

大好きな、私の恋人。


Fin

「あとがき」
18禁にするか、書きながら迷いましたが、思いとどまりました。雰囲気だけでも感じていただければ、幸いであります。蕩けそうなくらいに甘い内容ですね。こういうの、好きです。読むのも書くのも、好きです。そういうシーンを頭に思い浮かべるだけで、幸せです。もちろん、ヒイリリで。大好きだ、ヒイリリ。

2004.2.17 希砂羅