「Love Story」

疲れた、とか
大変、とか
彼女がそういった弱音を吐くことは
ほとんどない。

それは彼女の癖なのか
ただの意地なのか強がりなのか
彼女に尋ねたことはまだない


ぼんやりとしてみる。
テラスに置かれたチェアに全身を預けて。
膝の上に置いた読みかけの小説。
時間のある時にしか読めないその小説は
いつまでもエピローグに辿り着けないまま。

目を閉じると自然に零れたため息。
自分で驚いた。
そして気付く。
今は、ため息をついても涙を零してもいいのだと。


彼女を見下ろす。
涙に濡れた頬が乾いてしまっている。
泣き疲れて寝てしまったのだろうか。
風に揺れる髪。
揺れる度に甘い香りが風に乗って鼻をくすぐる。

だらりと垂れた右手を
膝に置かれた左手に重ねようと手に取ったとき
小さな声を漏らして
彼女が目を開けた


驚いた。
自分を見下ろす人物。
会いたいと願った
何度も
だけど
気付かないだけで彼は側にいる
そう感じることはあった

その彼が
今まさに
自分の目の前にいる
自分と同じように
驚いた顔をして


何も言葉は出なかった
彼女の右手を掴んだまま

彼女も同じように
黙って自分を見つめ返す


気まずい


どうしよう


何を言おう


沈黙・・・沈黙・・・沈黙


「リリーナ」
「ヒイロ」
同時だった

頭に浮かんだ言葉を
ただ発した


バサッ

音に顔を向ける。

膝に置かれた小説が滑って落ちた
ただそれだけなのに
過剰に反応してしまった


彼女の右手を離し
カバーの掛けられた本を拾う


差し出される本

「ありがとう」
「いや・・・」
「あの・・・いつから、いたの?」
「・・・少し前だ」
「そう・・・なの」
「・・・疲れているのか」
「え?・・・ええ、そうね。知らない間に寝てしまったみたい」
「・・・ここでは風邪をひく。寝るならベッドに入れ」
「・・・はい」
体を起こして立ち上がる。
「っ!」
長時間座っていたからだろう。
立ちくらみを起こし、しばらくは目の前が暗くなった。
体制を整えようとチェアの肘掛に手を付いた時だった。
その手を取られ、ぐいっと引き寄せられた。
顔を上げると、目の前に彼の顔。
かかる吐息に目を閉じた。

力が抜け、手から落ちた本。

カバーが取れて表紙がのぞく
その表紙には・・・

『Love Story』


Fin


「あとがき」
何じゃこりゃー!
という感じです。何も決めずに書き始めました。何が書きたかったのかは不明ですが、とりあえず2人のラブが書きたかった。最近、書いてないので。2人のラブに飢えています。
しばらくは意味不明な2人のラブが続くかも・・・?

2004.2.17 希砂羅